フロー状態とは、時間が経つことを忘れるほど作業に没頭している状態のことです。一般社会でもよく聞かれる言葉の一つとなっており、興味を持つ人たちも増えています。
そんな「フロー状態」ですが、具体的にどういう状態なのか、フロー状態になるための方法はあるのか知りたい方も多いでしょう。
今回は、フロー状態について興味がある方のために、概要から効果、入るときのポイントについて解説します。
フロー状態とは?
フロー状態とは、時間を忘れて目の前の作業に没頭している状態のことです。
簡単に説明すると極限の集中力のようなもので、入ることで物事が「あっという間に終わる」感覚となります。
フロー状態は仕事だけではなく、勉強や遊びなどさまざまなシチュエーションで活用することができます。
また、一部の才能のある人間しか得られない能力と思われがちですが、フロー状態はポイントを抑え、訓練することで誰でも入ることが可能になります。
一度入ることができれば、高いパフォーマンスを発揮できるなど幅広い効果を得られるでしょう。
フロー概念が誕生した背景
そもそもフロー状態という概念は、アメリカ人である心理学研究者ミハイ・チクセントミハイ(Csikszentmihalyi, M.R.)が1975年に提唱した理論です。
著書「フロー体験 喜びの現象学」にもまとめられており、この書籍にはフロー状態や幸せにつながる行動などが詳細に書かれています。
1975年に提唱した際にはそれほど広まっていない言葉でしたが、1980年代〜1990年代にかけて流行しました。
フロー状態は活動している人全員に関係のあるものとされており、入りこむことで充実感を持って集中している精神状態になることができます。
フロー状態の具体例
フロー状態の具体例をあげると、例えば仕事については、「業務に集中していていつの間にか時間が過ぎていた」と感じる行動が、フロー状態です。
また、読書をしているときでも、「読むことに集中し過ぎて周りの声や雑音は全く入ってこなかった」といった状態も、フロー体験していると言えるでしょう。
実際に何かしらの行動をしているとき、「気がついたら相当時間が経っていた」とか「我を忘れて作業だけに集中していた」などの経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。
これらの体験はフロー状態に入っているとも言え、誰しもが経験できることであり、特別難しい能力ではありません。
フロー状態に入ることで人は幸せを感じやすくなり、日々を楽しく過ごすことができると心理学研究者であるミハイ・チクセントミハイは話しています。
あらゆる行動において多くの効果を発揮してくれる状態であるため、皆さんも体験してみてください。
フロー状態がもたらす効果
フロー状態がもたらす効果はどのような点があげられるのでしょうか。ここでは具体的に3つの効果について紹介するので参考にしてみてください。
パフォーマンスの向上
フロー状態に入ることで、周囲から受ける刺激や気になることを感じなくなります。目の前の作業が完了するまで集中できる能力を手に入れられるため、高いパフォーマンスを発揮できるのです。
例えば仕事や勉強をしようと思っても、フロー状態に入っていないと周囲からの誘惑に耐えられず、作業に集中できなくなることがあります。ですが、フロー状態に入ればどのような誘惑も感じません。
仕事であれば高い業績を出すことができ、勉強であれば効率よく習得できるなど、パフォーマンスの向上を期待することができるのです。
目の前の作業に対し楽しさを感じられるようになる
フロー状態にある「あっという間に時間が過ぎる」ような感覚は、作業に対する楽しさを感じられている状態と言えます。
なぜ楽しさを感じられるかについては、自分に合った課題に対し、全力で取り組むことができているからです。
例えば「遊びに熱中し過ぎてしまった」といった感覚は、多くの人が「楽しかった」と感じる部分でしょう。
フロー状態に入れば、遊びだけでなく仕事や勉強でも同じような状態に入れます。活動している人が充実感を持って取り組める精神状態となるので、楽しさを感じ、充実した日々を送ることができるでしょう。
自己成長につながる
フロー状態によって極限の集中力を手に入れることにより、自分の限界を引き上げることが可能です。
例えばこれまでは集中力がもたずに1時間しか勉強できなかったとしても、フロー状態に入れば3時間、5時間といった長時間でも取り組むことができます。また、長時間であっても集中できていなかった1時間の勉強よりも短く感じられるでしょう。
没頭して取り組める状態であることは、長時間集中できることにより、これまでの自分よりももっと成長できる機会を与えてくれるのです。
また、自分自身のレベルが上がることにより、これまで対応できなかった課題に対しても、フロー状態に入れば自ら調べ、試行錯誤を重ねられる能力が身につきます。
自分自身を成長させることで、これまでにはなかった新しい力を身につけられるのもメリットの一つと言えるでしょう。
フロー状態を構成する7つの要素とは?
フロー状態に入るためには、構成する要素を理解しなければなりません。
ここでは7つの要素について詳しく紹介するので、入るために何をしなければならないのか把握しておきたい方はチェックしてみてください。
①目標が明確であること
フロー状態に入るための第一歩として大切なのが、目標が明確であることです。基本的に目標がないまま作業に没頭したとしても、終わりが見えないので集中することが困難になります。
そのため、まずは明確な目標を立て、何をすることで課題や問題を解決できるのかしっかりと決めるようにしましょう。
例えば学習において説明すると、ただ単に「1時間勉強する」ではなく、「1時間以内に5ページ進める」など、ゴールまでしっかりと決めておくことが大切です。
終わりが見えればそこに向けて作業を進めるだけなので、フロー状態に入りやすくなります。
②達成できそうな課題に取り組むこと
フロー状態に入るためには、「達成できそうな課題や目標であること」が重要です。
例えば勉強を、1時間以内に5ページ進めるのが自分の限界であるにもかかわらず、20ページ進めると設定してしまっていては、現実的な目標とは言えません。
自分の限界を超えた設定は、モチベーションの低下にもつながりますので、フロー状態に入ることは難しいでしょう。
あくまでも達成できそうな課題に取り組むことがフロー状態に入るためのポイントとして重要です。
ただし、簡単過ぎる目標設定もよくありません。すぐに達成できるものもフロー状態に入りにくいため、できれば簡単ではないけれど、自分でも達成ができる目標に取り組むことを意識してみてください。
③進捗・フィードバックが得られる状態であること
フロー状態に入り、最大限自分の力を引き出すためには、すぐに進捗確認ができ、フィードバックが得られる状態であることが好ましいでしょう。
ただ単に作業に取り組むだけでは、目標に向けてどのくらい進んだのか、どのような効果があったかなどを理解しないまま進んでしまいます。
進捗状況やフィードバックがないと、間違いに気づくことができない状態となってしまうため、自分に力がついているのかもわからず、最大限の力を引き出すことはできません。
フロー状態に入るためのポイントとしては、一つひとつの作業に対し、その都度修正して改善を繰り返すことが大切となり、そうすることで自分の限界まで力を出すことができます。
④集中力があること
感覚的な問題になるので難しい部分ではありますが、今取り組んでいる作業にだけ集中していることもフロー状態に入るためには重要な要素です。
例えば作業をしていて、他のことを考えている時間が少しでもあれば、それはフローに入っているとは言えません。
フロー状態では目の前の事以外、一切意識を向けないことが条件となるため、極限の集中力が必要です。
例えば、心を静めて無心になるためには「瞑想」がありますが、フロー状態は一種の瞑想のような状態にならなければなりません。
特に一つのことに集中する感覚がよくわからない方は、瞑想をイメージし、目の前のことだけに集中できるよう練習しましょう。
⑤不快なことや気になることを忘れること
集中力を極限に保つためには、不快なことや気になることがあると、フロー状態に入ることができません。
そのため、日々の不快なことや気になることがある方は、まずはそれらを取り払ってから作業に没頭するようにしましょう。
とは言っても、ネガティブな要素というのは、なかなか頭から離れにくいのも事実です。
ストレス状態にある場合は、リソースを今目の前の行動のみ割くよう心がけましょう。最初は頭から離れなくても、目の前だけに集中することで自然と頭から離れるようになります。完全に頭からなくなった状態が、フロー状態とも言えるのです。
⑥没頭できる環境を用意すること
フロー状態に入るためには、環境の問題も重要になります。例えば、静かな環境の方が集中しやすい読書などを、あまりにも音が大きい環境で読んだり、誘惑の多い環境で読んでしまうことで集中力は途切れてしまいます。
また、作業に没頭するにあたって気が散る要素はいくつかあり、スマートフォンやデスク周りが散らかっているなど、こうした要素も集中できない原因の一つとなります。
スマートフォンは電源を切ったり、作業に没頭する前に身の回りの整理をしたりと、作業に取り組みやすい環境を用意しましょう。
その他にもまとまった時間を用意できることも重要な要素です。例えば取り組もうとしている作業が1時間かかるのに対し、10分しか時間がないからその時間内に終わらせようとしても過度なプレッシャーを自分に与えるだけです。
集中できなくなる可能性が高くなるため、フロー状態に入りながら作業に取り組みたい場合は、まとまった時間は必要と言えるでしょう。
環境は工夫次第で変えられる要素であり、フロー状態に入るためにも重要な要素なので、自分が集中できると思う環境を用意しましょう。
⑦内発的動機であること
フロー状態を手に入れるためには、内発的動機であることが条件の一つとしてあげられます。
逆の言葉として外発的動機がありますが、これは外部からの働きかけによる動機付けのことです。外部からという点が重要であり、自分からやりたいと思った行動ではないため、フロー状態には入りにくいと言われています。
それに比べて内発的動機は、物事に対する強い興味や探究心など、自分自身の内からなる動機によって行動に結びつきます。
つまり、自分がやりたいと思った興味のあることに取り組む行動であるため、フロー状態に入りやすいのです。
外発的動機でも必ずしも入れないわけではありませんが、できれば内発的動機である方がフロー状態に入る可能性は高くなるので、初めて取り組む方は、できる限り自分がやりたいと思ったものだけ手を出すようにしましょう。
フロー状態への入り方
ここからは、フロー状態へ入るための手順について紹介します。
何から取り組むべきかわからない方は、参考にしながら挑戦してみてください。
STEP1:明確な目標とフィードバック
STEP1で取り組む内容としては、明確な目標を設定することです。
例えば、その作業がどのようになったら完了するのかなど、具体的に設定するようにしましょう。
あらかじめ決めておくことで、完了するまでに取り組まなければならない行動が見えてきます。効率よく作業にも取り組めるため、フロー状態に入りやすくなるでしょう。
また、目標を立てたらフィードバックを監視、取得できるような状況を整えることも大切です。
目標とフィードバックが整う環境であれば、よりフロー状態が起こりやすくなるので、この2点は重視して取り組んでみてください。
STEP2:活動への没入
明確な目標を決めたら、STEP2では実際に活動や作業に取り組みます。実際に進めるにあたって重要なポイントとしては、自分自身の能力と挑戦する課題のバランスです。
例えば、これから取り組もうとしている課題が自分にとって簡単すぎるものは、退屈に感じてしまうため、なかなかフロー状態に入ることは難しいでしょう。
逆に、自分の能力では対応できない課題であると、絶望や不安を感じてしまうため、難易度が高過ぎるものもフロー状態には入れません。
フロー状態を手に入れるためには、これらのバランスが大切です。難し過ぎず、簡単過ぎない作業に取り組むことで、活動への没入を実現できます。
STEP3:フロー状態で喜びを感じる
STEP2まで完了したら、あとはフロー状態で喜びを感じましょう。フロー体験をすることで、圧倒的なパフォーマンスと楽しさを感じられるようになります。
今まで以上に自分の成長も感じられ、より仕事や勉強の精度も上げることができるでしょう。
フロー状態は工夫次第で誰でも体感できる能力となっているため、自分も体感してみたいと思っている方は、ぜひフロー状態への入り方を参考にしながら取り組んでみてください。
フロー状態に入りやすくなるためには?
フロー状態に入りやすくなるためには、いくつかのポイントを知っておく必要があります。
特に重要なポイントとして、ここでは2つ紹介します。
マルチタスクはやめる
フロー状態で複数の作業を同時に並行することで、より効率がよくなると考えている方も多いでしょう。
しかし、マルチタスクは逆効果となるため避けるようにしましょう。同時進行で作業を進めることは、脳のスイッチの切り替えを短期間で何度も繰り返し行うこととなるため、疲労感が強く、逆に効率を下げてしまう可能性が高いのです。
フロー状態は一つのことに没頭することが条件でもあるため、集中力が途切れがちなマルチタスクは行わないことがコツです。
特に仕事などをマルチタスクで進めてしまいがちな人は注意しましょう。
無理はしないこと
そもそもフロー状態は、入りたい時に自由に入れるものではありません。
基本的にはコントロールをしようとすればするほど入れなくなる可能性が高くなり、逆に疲れが溜まってしまいます。
無理をすることで集中力も保てなくなるケースがほとんどなので、自分のできる範囲で取り組むことが大切です。
フロー状態の注意事項
フロー状態は、どのような事柄についても活用することができ、特に仕事や勉強といった作業に対してはプラスに働きます。
しかし、中には注意しなければならないこともあります。ここでは注意事項についても詳しく説明するので参考にしてみてください。
熱中症や貧血などのリスク
フロー状態に入ることで、時間の感覚がなくなり、極限の集中力を手に入れることが可能です。
この感覚はプラスに働く場面が多くなりますが、没頭する環境が悪ければ熱中症のリスクにもつながってしまいます。
特に夏場の時期では集中することで暑さを感じにくくなり、熱中症などで体調を崩す可能性も否定できません。
また、一度フロー状態に入ると、何時間も集中してしまいます。途中で水を飲むなどをしないケースがほとんどのため、貧血のリスクもあるのです。
先ほども紹介しましたが、フロー状態に入る前には環境を整えたり等、準備をすることが大切です。
準備を怠ると熱中症や貧血などのリスクもあるので、注意して取り組むようにしましょう。
燃え尽き症候群のリスク
フロー状態による極限の集中力は、作業の効率をよくする反面、精神にかかる負担は大きなものとなります。
長く続けば続くほど疲労が蓄積され、燃え尽き症候群に近い状態に陥ることもあるのです。
フロー状態を続けられる時間の長さは人によって異なりますが、長く入り過ぎてしまうのであれば適度に休憩を取るようにしてください。
短期間で何度もフロー状態に入り、集中し続けるのはリスクが高いため、無理矢理にでも体を休ませるようにしましょう。
ギャンブルは特に注意
フロー状態とギャンブルは深い関係があると言われており、勉強や仕事と比べてもフロー状態に入りやすくなります。
その理由は当たるか当たらないかという状態が、フロー体験をしやすくなると言われているのです。
フローには中毒を引き起こす要素もあり、特に最初の体験がギャンブルになると、ギャンブル依存症になる危険性もあります。
一度依存するとなかなか抜け出すことが難しくなるため、特に注意することが大切です。
広い視野は失われる可能性がある
フロー体験をすると、目の前の物事に没頭し過ぎて、視野を広く持つことができなくなる可能性があります。いわゆる周りが見えなくなる状態です。
一つの物事に集中し過ぎてしまい、その物事以外に目を向けられなくなってしまうため、周りで注意しなければならない事柄が発生しても気づかないといったリスクもあるのです。
このようなリスクを防ぐためには、必要なときにフロー状態となり、必要に応じてフロー状態を解除する力も身につけなければなりません。
特に初めて体験する人にとってはコントロールすることが難しいため、徐々にでもいいので自分自身の力で解除できるよう訓練する必要があります。
このように、フロー状態にはメリットばかりではなく、注意しなければならないポイントも存在します。
特にギャンブル依存などは大変危険ですので、問題行動となるケースにフロー状態を活用しないように注意しなければなりません。
フロー状態は、我を失い、問題行動を引き起こしてしまっては意味がないため、注意事項に当てはまりそうな方は「マインドフルネス」についても知っておいてください。
下記ではマインドフルネスについて詳しく解説しているので、そちらも併せてチェックしてみてください。
まとめ
フロー状態は、入り込むことで目の前の作業に没頭することができ、今までにはない極限の集中力を手に入れることができます。
フロー状態になることで、仕事や勉強の効率をいつも以上に上げることができたり、今までの自分よりも大きく成長させることができたりとさまざまなメリットがあります。
体験するためには特別な能力も必要なく、基本的には誰でもフロー状態になることができるため、もっと集中するための方法を知りたいと考えている方は、ぜひ挑戦してみてください。
しかし、メリットの反面、注意点もいくつかあることを紹介しました。メリットだけを獲得するためには注意事項に当てはまらないことが大切なので、フロー状態を体験したい方は、この記事で紹介した注意事項も参考にしながら取り組んでみてください。