なぜ働く人は「仕事がつらい」と感じるのでしょうか。お金を稼ぐのだからつらくて当たり前なのでしょうか。仕事の量が多いから、仕事が難しいからつらいのでしょうか。つらかったら辞めてもいいのでしょうか、それとも我慢して続けなければならないのでしょうか。
この記事では、仕事をつらいと感じる原因と、そのときの対処法を紹介します。さらに、つらいと感じたときに転職することの是非について考察し、一定の回答を提示したいと思います。
2種類の仕事のつらさ
仕事が楽しくて仕方がない、という人もいるでしょう。しかしそのような人でも一度は「今回の仕事はつらいな」と感じたことがあるはずです。
仕事がつらいのは当然です。なぜならすべての仕事には賃金が支払われているからです。仕事には「お金を支払わなければやり手がいない作業」という性質があります。
本稿では、仕事はつらいものという前提で解説します。仕事のつらさには次の2種類があります。
- 難しい仕事をしていることのつらさ:やりがいがある
- 理不尽な理由によるつらさ:我慢する意味がない
難しい仕事をしていることのつらさ:やりがいがある
難しい仕事を任されたことでつらさを感じているとき、それはむしろやりがいのある仕事と言えるでしょう。難しい仕事は誰でもこなせるわけではなく、自分でもやり遂げられるか微妙なところで、そのために勉強やスキルの獲得や努力が必要になります。
勉強、スキル獲得、努力はストレスになり、つらさを感じるようになります。それでも我慢して難しい仕事を続けたほうがよいのは、得られるものが大きいからです。
難しい仕事に取り組むと、勉強しなければならないので知識が蓄えられます。スキルを獲得しなければならないので仕事の処理スピードが上がります。努力しなければならないので仕事に真摯に向き合えるようになるでしょう。
これらの経験はすべてビジネスパーソンを鍛えて成長へと導くはずです。さらに、難しい仕事を完遂したら誇れる実績になります。
また、難しい仕事は担い手が少ないので、高い賃金が支払われる可能性があります。例えばビッグプロジェクトが成功したらボーナスが出るかもしれませんし、昇格して給料が増えるかもしれません。
理不尽な理由によるつらさ:我慢する意味がない
つらい仕事のなかには、理不尽なものがあります。誰もがブラックと認めるような企業で働くことのつらさや、誰もがパワハラと認めるような振る舞いをする上司の下で働くつらさは、我慢する必要はありません。
我慢する必要がないつらい仕事は、具体的には次のようなものです。
- 過労死が起きてもおかしくない長時間労働
- 安全が確保されてない仕事
- サービス残業を強いられる仕事
- 自分の能力やスキルと比べてはるかにレベルが低い仕事
- 自分の能力やスキルと比べてはるかにレベルが高い仕事
- 業務内容からすると明らかに安い賃金の仕事
仕事がつらいと感じる原因
仕事の種類はさまざまで、人がつらさを感じる対象もさまざまです。したがって仕事がつらいと感じる原因は、シチュエーションごとに細かくわけて分析しないとみつかりません。
仕事が難しい
仕事ができないことはつらさの原因になります。そのため、自分の能力を上回る難しい仕事を与えられるとつらくなります。
同じ作業をしている人たちが軽々こなしているのに自分だけできないのは恥ずかしさを感じます。
8時間で10の仕事を終えるよう指示されているのに5しか完成しなかったら、「これで給料をもらっていいものなのか」と罪悪感にさいなまれたり、「できない人だと思われるのではないか」と心配したり、「クビになるのではないか」と不安になったりするでしょう。
労働時間が長い、業務量が多い
課された業務量が多いと長く働かなければなりません。労働にはどうしても「やらされている」という要素も含まれるので、1日8時間程度であれば我慢できても、1日12時間労働が連日続くと「なんでこんなに酷使されなければならないんだ」と怒りがこみあげてくるかもしれません。
また労働時間が長くなると「早く家に帰りたい」「家族とすごす時間が削られる」「帰宅しても疲れて寝るだけなのでプライベートの時間がない」といったつらさが出てきます。長時間労働はプライベートを侵食します。
人間関係が悪い
人間関係が悪い職場はつらいでしょう。
上司と部下の仲が悪い、同僚間の連携が取れていない、仕事を教えてくれる人がいない、困ったときに助けてくれる人がいない、人を蹴落としてでも昇格しようとする人が多い、他人の批判をする人が多い、頻繁にいじめが起きている、パワハラやセクハラが横行している――このような職場の一員になりたい人はいないでしょう。
職場環境が悪い
職場環境の悪さもつらさにつながります。
例えば、東京の本社のオフィスは新しくて快適なのに、地方の営業所の事務所は古くて設備が整っていない場合、本社からその営業所に異動になると職場環境の悪さを実感してつらさを味わうことになります。会社から大切に扱われていないと感じると、「左遷させられた」と思ってつらさが倍増します。
また、暑い、寒い、うるさい、暗い、悪臭がする、といった事務所で1日中働くこともつらさが募ります。
屋外の仕事や工場内の仕事だと、危険度が高いとつらい職場になります。
仕事が簡単すぎる、成長を感じられない
単純作業の仕事については、「何も考えず手だけを動かせばいいので楽だ」と感じる人がいる一方で、「単調すぎて退屈だ」と感じる人にはつらいものです。
また、これまで長らく、自分の能力を活せて成長を感じられる仕事を任されていたのに、報復人事のような形で単純作業の仕事に回されると、そこで一生懸命働いている同僚に申し訳ないと思いつつも「なんで自分がこんな仕事をしなければならないのか」と感じるようになるかもしれません。こうした悔しい思いを抱えながら仕事をするのはつらいものです。
賃金が不当に安い
賃金が高いと「つらかったけど報われた」という感情が湧くのでつらさが幾分減りますが、賃金が低いと「つらいうえに給料も安いのか」と不満が増えてしまうでしょう。
甘えとの関係について
仕事をつらいと感じるのは甘えているからではないか、と指摘する人がいるかもしれません。つらい仕事を長年続けている人なら、なおさらそのように感じるかもしれません。
しかし、甘えによるつらさなのか、理不尽な仕事のせいでつらいのかは、当人しかわからないはずです。
例えば、ある人が「この仕事は難しいからつらい」と感じていたとします。しかし別の人がその仕事をなんなくやり遂げたら「こんな仕事をつらいと感じるのは甘えているからだ」と思うかもしれません。
仕事に真摯に向き合ってスキルを身につければつらさが減るのかもしれませんが、そのようにできない人もいます。
したがって、能力の高い人が、誰かが「仕事がつらい」と言っているのを聞いたときに「甘えている」と指摘してしまうのは正しいことではないかもしれません。
心の病について
心の病を発症している人が仕事をつらいと感じるのは、ここまで紹介したつらさとはまったく別の種類のつらさであり、同列に扱うことはできません。
例えば、うつ病を発症していると、仕事がある日の朝、布団から出るだけでもつらさを感じることがあります。これは仕事が嫌だから起き上がるのがつらいのではなくて、病気がそのような気持ちにさせているのです。
心の病にかかっている人が仕事につらさを感じたら、医療的なケアが必要になるでしょう。
仕事のつらさを抑えるための対処法
仕事は、生活するためのお金を得る数少ない手法の1つなので、つらいからといって仕事を辞められない人は多いはずです。
しかし、つらい状況を放っておけばストレスが膨らみ、メンタルに支障をきたす恐れがあります。そのため、仕事がつらいと感じたら、対策を講じる必要があります。つらいときの対処法を紹介します。
つらさの原因を特定する
対策を講じるには原因を特定する必要があります。原因が特定されて初めて解決のための策を考えることができます。
仕事をつらく感じる原因は先ほど紹介したとおり、仕事が難しい、長時間労働、人間関係が悪いなどさまざまです。どれにあてはまるのか確認してみてください。
仕事に立ち向かう、スキルを身につける
「あれだけつらかった仕事だけど最近は慣れてきた」という経験をしたことはありませんか。慣れない仕事につらさを感じているだけなら、慣れてくるとつらさが減ります。
また、難しい仕事はやり方を研究して工夫を重ねれば難しさが減りますし、長時間労働はスキルを身につけて短時間で仕事を片付けられるようになると解消されます。
このように仕事に立ち向かっていったり、スキルを身につけたりするとつらさは減ります。しかも難しい仕事をこなせるようになると達成感ややりがいを感じることができ、むしろ仕事が楽しくなることもあります。
スキルアップを成功させるための6つの方法をこちらの記事でご紹介していますので、こちらもご覧ください。
相談する
人間関係に問題がない職場であれば、仕事をつらいと感じたら、上司や先輩や同僚に相談してみましょう。率直に「この仕事をこれほどつらく感じるのは私だけでしょうか」と尋ねて構いません。もし先輩が「最初の半年はみんなつらいって嘆くよ」と答えてくれたら、「自分だけではないのか」と思うことができて、少し救われる気持ちになります。
先輩がさらに「どんなに覚えが悪い人でも1年もすればできるようになるから、もう少し頑張ってみないか」と言ってくれたら、「そこまで言ってくれるならもう少し我慢して続けてみよう」と思えるはずです。
仕事を変える、転職する
どうしてもつらさを解消できないとき、もしくは、暗澹(あんたん)たる状況に光が差し込む気配がみられないときは、仕事を変えることで解決できるかもしれません。
仕事を変える方法の1つが転職です。
ただし、転職先の仕事がつらくない保証はどこにもないので、今の仕事がつらくて辞めるときは、転職希望先の会社の業務内容をしっかり調べる必要があります。
そのとき転職エージェントにサポートを依頼してもよいでしょう。転職エージェントになら、「私の能力はこれくらいですが、耐えられるでしょうか」と尋ねることができます。転職エージェントのほうでも「今よりは断然よくなるはずですよ」とか「その会社だと現状とあまり変わらないかもしれません」と答えてくれるはずです。
社内に複数の仕事があれば、転職しないで仕事を変えることができます。上司に相談すれば別の仕事を割り振ってもらえるかもしれません。また最近は社内公募制度を採り入れている会社もあります。これは、ある部署が増員するとき社員から希望者を募るもので、それに応募して合格すれば、やりがいを感じられる仕事に出会えるかもしれません。
心の病なら医療の力を借りる
同じ仕事を続けていて、これまではつらさを感じなかったのに、最近なぜかつらさを感じてきた場合、心の病を発症しているかもしれません。
その場合、医療で治せるかもしれないのでクリニックにかかってみてよいと考えます。
仕事がつらいと思ったときにやってはいけないこと
仕事がつらいと思っても、すぐに退職しないほうがよいでしょう。
また、つらさが募っているのに誰にも相談せず1人で解決しようとするのはよい方法といえません。
すぐに退職する
退職や転職は、仕事をつらく感じたときの対処法の1つですが「すぐに」退職することはおすすめできません。
つらくて耐えられないと感じた場合でも、まずは冷静になってつらさの原因を特定し、「退職すること以外の対策はないか」と考えてみてください。なぜならそのように考えることも、仕事と向き合っていることになるからです。
お金を得る必要があれば、退職してもいつかまた働き始めなければなりません。そして仕事には多かれ少なかれつらさが含まれる以上、働き続ける限り完全につらさを消すことはできません。
そして、先ほど紹介したつらさの対処法である「仕事に立ち向かう」「スキルを身につける」「相談する」「上司に仕事を変えてもらうよう願い出る」といった方法は効果があります。退職するのはこれらの対処法を試してからでも遅くありません。
ただし、ブラック企業であることに疑いの余地がない会社に入ってしまい、そこでつらさを感じていたら、すぐに退職してよいでしょう。
誰にも相談せず1人で解決しようとする
つらいと思ったら、誰かに相談しましょう。上司、先輩、同僚、後輩、家族、友人と、仕事の相談相手はたくさんいます。みなさん仕事との向き合い方には一家言(いっかげん)持っているはずで、そういった方のアドバイスは必ず役に立つでしょう。
公の機関でも仕事の相談を受け付けています。
●厚生労働省の総合労働相談コーナー
●厚生労働省の「こころの耳」相談窓口
●厚生労働省の「労働条件相談 ほっとライン」
●法務省のみんなの人権110番
まとめ~必ず仕事で誰かとつながっている
記事の内容を箇条書きでまとめます。
- 仕事のつらさにはやりがいがあるものと我慢する意味がないものがある
- つらさの原因には、難しい、長時間労働、人間関係や職場環境が悪い、などがある
- つらさの対処法にはスキルを身につける、相談する、仕事を変える、転職する、などがある
- つらくても「すぐに」退職するのはおすすめできない(ブラック企業の場合は別)
- つらかったら家族や友人、転職エージェントに相談しよう
完全に1人で完結する仕事は存在しません。仕事は必ず誰かに与えられ、仕事の成果物は必ず誰かに納めます。誰かの仕事を引き継ぐこともありますし、誰かに自分の仕事を引き継いでもらうこともあります。
つまり働く人たちは、必ず誰かと仕事を介してつながっているので、その輪のなかに頼りになる人がいます。「つらい」と思ったらその人たちに相談してみてください。