ビジネスパーソンに求められるスキルのひとつとしてコンセプチュアルスキルがあげられます。ハーバード大学の経営学者、ロバート・カッツ氏によって提唱されたスキルのことで、実際に耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
しかし、『コンセプチュアルスキル』という言葉を聞いても具体的にどのようなスキルなのかわからないという方も少なくありません。また、この能力を高めることで、獲得できるメリットを知りたい方もいらっしゃるでしょう。
今回は、コンセプチュアルスキルとはどのようなスキルなのか知りたい方のために、概要に加えて、コンセプチュアルスキルを高めることで得られるメリットなどを徹底解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
コンセプチュアルスキルとは
コンセプチュアルスキルとは、数多くの知識や情報をさまざまな視点から総合的に判断し、隠された物事の本質を捉える能力のことです。日本語では、概念化能力と表現されます。コンセプチュアルスキルは、ハーバード大学のロバート・カッツ氏によって提唱された能力です。
コンセプチュアルスキルを高め、あらゆる情報や知識を学習・判断することで、複雑な事象も論理的に考えることができるようになります。これにより、業務効率化を促進させることができるので、ビジネスパーソンに必要なスキルとして注目されています。
また、コンセプチュアルスキルは、カッツモデルを軸にした能力です。カッツモデルとは、役職によって求められるスキルを下記の3つの枠組みに分類し、明示した理論を意味します。
◆「カッツモデル」を構成する3つの能力
- テクニカルスキル
- ヒューマンスキル
- コンセプチュアルスキル
カッツモデルをフレームワークとして採用することで、従業員や部下の成長レベルを計る物差しとなるため、日本でも人材育成などに活用されています。
元々、コンセプチュアルスキルは会社の経営層やプロジェクトリーダーなど上位の階層に求められるスキルでした。しかし、現代は正解のない時代であり、尚且つ現場の人材には、スピーディーな意思決定や問題解決が求められます。そのため、コンセプチュアルスキルは経営層だけでなく、中堅層や若年層にも求められるスキルです。
コンセプチュアルスキルの構成要素
コンセプチュアルスキルは、コミュニケーション能力などと比較して、非常に抽象的なスキルです。そのため、イメージしづらいかもしれません。
コンセプチュアルスキルの構成要素を知ることによって、具体的にコンセプチュアルスキルを高めるためにはどのような能力を身に付ければいいのかがわかりますので、次にコンセプチュアルスキルを構成する要素を10種類ご紹介していきます。
クリティカルシンキング(批判的思考)
クリティカルシンキングとは、情報や意見などを正確に分析し、論理的かつ客観的に捉える能力のことです。また、物事を批判的に捉えて分析することと解説されることもあります。
クリティカルシンキングは日本語で批判的思考と訳されるため、物事を批判的に見るというイメージを持つ方もいるかもしれません。例えば、ある物事に対して欠点を積極的に見つけるというような行動と捉える人もいるでしょう。しかし、クリティカルシンキングは決して欠点ばかりを見つけて批判するという能力ではありません。正確性を意識して物事を見ることで、正しい論理につなげていくスキルです。
クリティカルシンキングの概要を詳しく知りたい人は、下記のリンクからご確認ください。
ロジカルシンキング(論理的思考)
ロジカルシンキングとは、物事を論理的に考える能力のことです。日本語では、論理的思考といわれます。ある課題に対して道筋を立てて矛盾などがないかを考える能力のことで、この思考を取り入れることで直感的・感覚的に物事を捉えることがなくなります。
ビジネスはさまざまな要素が絡まっており、ある課題に対する正解はひとつではなく、複数の原因が影響しているケースが多いです。ロジカルシンキングを実践することで、物事を整理し、道筋を立てて取り組むべき課題に優先順位を付けることができるため、効率的に課題を解決することが可能です。
ラテラルシンキング(水平思考)
ラテラルシンキングとは、水平思考とも呼ばれ、問題を解決する際に固定観念などに囚われず、物事に対して多角的な考察や新しい発想を生み出すためのスキルのことです。
簡単に表現すれば、問題を解決するときに、常識を疑いさまざまな視点から物事を捉えて新しい考え方を生み出す思考力を意味します。ラテラルシンキングは、1960年代に心理学者エドワード・デボノ博士によって提唱されました。
ラテラルシンキングを取り入れることで、前例のない結論を導き出すことができます。前例に沿った結論は、決してデメリットばかりではありません。実際に、前例は過去の成功や失敗などの経験がもとになった基準であり、それに従うことで間違った結論を選択しないように努めることができます。また、社会的な信頼性や安全性を保つためにも非常に重要なことです。
しかし、前例は過去の経験に基づいて構築されるため、革新的な発想やアイデアが生まれづらいという欠点があります。既成概念や固定概念を持って導かれた結論になるため、ある一定の枠からはみ出すことができません。
一方、ラテラルシンキングは既成概念や固定観念を持たずに、前例のない結論を出すことができるため、効率的な問題解決に至る場合があります。
また、ラテラルシンキングは結論にたどり着くまでのスピードが速いことも特徴の一つです。基本的に結論が導かれる過程は重要視されず、帰着した結論が問題解決に役立つかどうかを重視します。そのため、場合によっては速いスピードで問題解決を達成することができるでしょう。
多角的視野
多角的視野とは、ある課題や事象に対して複数の視点から捉えることができる能力のことです。例えば、先ほど紹介したクリティカルシンキング(批判的思考)と組み合わせることでリスクヘッジができます。
多角的視野は課題に対してあらゆる視点から問題を分析し、戦略を立案できる能力のため、これをクリティカルシンキングと組み合わせれば、今後起こり得るリスクを事前に察知し、予防策を講じることができるようになります。
また、多角的視野をラテラルシンキング(水平思考)と組み合わせることで、従来には存在しない斬新な発想を生み出すことができます。多角的視野を持つことで物事をあらゆる方面から考えることができるようになるため、ビジネスや社会において非常に重要なスキルです。
俯瞰力
俯瞰力とは、物事の状況を広く捉え、全体的な視点から見渡す能力のことです。
ある物事に対して一生懸命に取り組む際、集中するあまり視野が狭くなってしまうことがあります。この場合、判断ミスをしやすくなるため、好ましくありません。また、視野が狭くなったり、感情的になったりすることで、業務効率が悪くなることもあるでしょう。
しかし、俯瞰力を身につければ、広い視野で物事を捉えられるようになり、その場のことだけではなく将来的なリスクや成功まで考えられるようになります。
受容性
受容性とは、自分の考えとは異なる価値観を受け入れ、向き合うためのスキルです。ビジネスにおいてグローバル化が進み、多様な価値観を受け入れるのは重要な能力の一つと言われています。
一方的に自分の意見を押し通すことは、自分中心の考えとなってしまい、さまざまな意見を公平に見ることができません。
公平、公正に見れることでよりよい解決策を導き出すことができ、多くの人が満足できる結論を考えられるようになります。
柔軟性
柔軟性とは、臨機応変に対応する能力です。柔軟性もコンセプチュアルスキルには必要不可欠となり、柔軟性が備わっていないと複雑な問題に対して適切なアプローチを考えることができません。
また、時代の変化や技術の進歩は早いため、新しいアイデア等が生まれるたびに柔軟な思考力が大切となるのです。
コンセプチュアルスキルにおいては、特に新しいアイデアの発見や問題解決のために柔軟性が重要な役割を果たしてくれます。新しいアイデアやコンセプトを創造し、新たなことへと挑戦するためには必要不可欠なスキルと言えるでしょう。
知的好奇心
知的好奇心とは、新しいアイデア等に対する探究心や興味のことを指します。コンセプチュアルスキルには抽象化や複雑な問題を解決するための能力が必要ですが、これらは知的好奇心から生まれる問いかけや興味をもとに発展しているのです。
知的好奇心を持っている人は、新しい知識や技術を探究し、その知見をコンセプチュアルスキルを活用して整理し、応用することができます。また、単なる情報収集だけではなく、それらを組み合わせて今までにはなかったアイデアを生み出すことも可能です。
チャレンジ精神
チャレンジ精神とは、新しいことに挑戦する意欲や勇気のことです。コンセプチュアルスキルに必要となる高度な抽象化や、問題を解決する能力を持っている人は常にチャレンジ精神を持っています。
新しい分野へ挑戦する際には、必ずと言っていいほど失敗や挫折をしてしまいます。それらに立ち向かっていくためには、チャレンジ精神が欠かすことができないスキルと言えるでしょう。
探求心
探究心とは、物事を見極めるためにとことん調べたり、粘り強く取り組み続ける意思のことです。探究心を持っている人は、常に新しいアイデアや知識を追求し、今までになかったものを生み出そうとする力を持っています。
コンセプチュアルスキルを発揮するためには抽象化や複雑な問題を解決する能力が必要です。探究心があれば単に表面的な情報を得るだけではなく、概念や原理まで理解しようと努力するため、複雑な問題にも立ち向かっていくことができます。
コンセプチュアルスキルを高めるメリットとは
コンセプチュアルスキルにはさまざまな要素が含まれていますが、高めることでどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは具体的なメリットについて紹介します。
問題解決能力の向上
重大な問題が発生した場合、根本的な原因を見つけずに解決しようとしてもその場しのぎの対処にしかなりません。
コンセプチュアルスキルを持っている人は、重大な問題が発生すると根本的な原因を探り、広い視野を持って本質的な解決方法を導き出すことができます。
表面的な対処では同じような問題が次々と発生し、手をつけられないような状態となる可能性もあります。しかし、コンセプチュアルスキルは本質的に解決できる能力となるため、同じような問題が発生しないよう再発防止のアクションを取ることができます。
一時的な対処と比べると解決までに時間はかかりますが、長期的に見ると再発防止につながるため、最も効率的な解決方法であることがわかります。
問題となる根本的な原因を解決できれば、それだけ他のことに時間を充てられることとなるため、生産性向上にもつながるなど幅広いメリットがあるのです。
リーダーシップ能力が向上する
リーダーシップ能力を向上させるためには、戦略的な視点、問題解決能力、チームビルディング能力等が必要です。これらのスキルを持つことでチームを方向づけ、目的を達成するために人々を率いることができます。
このようにリーダーシップ能力にはさまざまなスキルが必要になりますが、その基盤となるのがコンセプチュアルスキルです。
実際にコンセプチュアルスキルを持つリーダーは、社会の複雑な状況にも適応し、戦略的な視点を持って組織を引っ張っていくことができます。また、組織の戦略的な目的や方向性を理解し、目的達成に向けた計画を策定することも可能です。
その他にも、リーダーの素質としてチームビルディング能力が重要になります。チームビルディング能力とは、チームメンバーの関係の改善、結束力等を向上させる能力です。チームには結束力がないとうまく機能せず、よりよい成果を出す組織が出来上がりません。
しかし、コンセプチュアルスキルを持つリーダーは、チームビルディング能力にも優れているため、チームメンバーが持つ能力や強みを理解し、それを最大限に活かしながら結束力のあるチームを作り上げることができます。
コンセプチュアルスキルにはリーダーとしての素質を磨く要素が多く含まれているため、コンセプチュアルスキルを高めることでリーダーとして活躍していくことも可能になるでしょう。
創造性が向上する
コンセプチュアルスキルを持つ人は、創造性を向上させることが可能です。例えば、新しいサービスを開発する場合、コンセプチュアルスキルが高い人は市場調査や顧客ニーズの分析を通じて商品の開発に必要な情報を収集できます。また、それらをもとに新しいアイデアを生み出し、創造的な商品を開発することが可能になります。
また、コンセプチュアルスキルを持つ人には柔軟性もあります。柔軟性がある方は、既存の枠組みにとらわれることはなく、常に新しいアプローチや技術を取り入れているため、今までにないような新しい発想を生み出すことができるようになるでしょう。
複雑な問題に立ち向かえる
複雑な問題には多くの要素が絡み合い、根本的な解決のために深い洞察力や理解力が必要です。そのため、人によっては高い壁に当たり、挫折を経験することもあるでしょう。
しかし、コンセプチュアルスキルを持つ人は、複雑な問題にも立ち向かえるようになります。具体的には問題を分析し、根本的な原因を特定する能力を持っているため、広い視点で問題に向き合うことができ、全体像の把握が容易になります。
また、未知の領域にも積極的に挑戦する意欲があるため、複雑な問題にも立ち向かえ、幅広い問題を解決していくことが可能です。
仕事の成果が上がる
コンセプチュアルスキルを持つ人は、問題解決や戦略策定において幅広いアプローチや視点を持って取り組むことができます。これにより新しいアイデアを生み出しやすくなり、他にはないものを世の中に出すことも可能になるため、仕事で結果を出せるようになっていきます。
また、さまざまな問題を根本的に解決できるため、あらゆる危機を回避できたり、具体的な対策も行えるようになります。先取りして対策を取ることも可能になるため、リスクを回避することで仕事の成果につなげられるでしょう。
コミュニケーション能力が向上する
コンセプチュアルスキルは複雑な問題や状況を理解し、解決する能力のことを指すため、このスキルを持つことで自然とコミュニケーション能力も向上させることが可能です。
コンセプチュアルスキルを持っている人は、自分の考えを相手に明確に伝えることができます。また、意見を述べるだけでなく、相手の考えを正確に理解し、適切なフィードバックを行うことも可能です。これらのことから会話がスムーズになり、相手との信頼関係も深めることができるのです。
また、外国の方と話す時には特にコンセプチュアルスキルが重要です。外国の方はそれぞれの地域で文化なども異なります。コンセプチュアルスキルは相手の立場や文化に対する理解を深めて話せるため、外国の方でもコミュニケーションを円滑に進めて行くことが可能になるのです。
現代ではネットの普及などもあり、コミュニケーションの場が減ってきたとも言われています。いざ話すとなっても上手く伝えられないと悩む方もいますので、改善するためにもコンセプチュアルスキルを高めてみてはいかがでしょうか。
コンセプチュアルスキルの高め方
最後に、コンセプチュアルスキルの具体的な高め方について紹介します。
抽象化して考える
コンセプチュアルスキルの高め方として重要なのが抽象化して考えることです。抽象化は、具体的なものを単純化し、その本質的な部分を見出すことを言います。
例えば「車」で説明すると、車と言っても形状や色、大きさ、価格などがありますが、それらの違いを抜きにして「車」という本質的な部分だけを捉えることが抽象化です。
抽象化して考えることができれば、より簡潔に捉えることが可能になりますので、説明もわかりやすくシンプルに伝えることができます。
抽象化することのメリットとしては、「全体を把握できる」「共通する本質的な要素が捉えられる」等があります。
具体的に抽象化して考えるためのポイントは下記が挙げられます。
- 共通点を見出す
- 詳細な情報を選択的に捉える
- シンプルに表現する
抽象化して考えることで物事をシンプルに捉えられ、複雑な問題を解決するためのスキルが身につきますので、ぜひ意識して考えてみてください。
具体化して考える
コンセプチュアルスキルを高めるためには、「具体化して考える」ことも大切です。具体化することで抽象的な概念やアイデアを具体的な形として落とし込むことが可能となります。また、理解を深めるためにも重要な要素です。
実際に具体化して考えるためのポイントはいくつかあげられます。
- シーンをイメージする
- 具体的な例をあげる
- 仮説を立てる
上記のように具体化して考えることで、概念やアイデアを具体的に捉える力が身につきます。コンセプチュアルスキルを高めるためには重要な要素なので、ぜひ日頃から意識して考えてみてください。
言葉の定義を明確にする
コンセプチュアルスキルを高めるためには、言葉の定義を明確にすることも大切な要素の一つです。例えば「日頃から専門的な用語を使いながら話しているけど、実際にその言葉の深い意味まで知らずに話している」という方もいるのではないでしょうか。
言葉の定義を明確にせず話すと相手には理解されにくくなり、伝えたいことが伝わらない可能性もあります。
そのようにならないためにも言葉の定義を辞書や専門書、インターネット上の資料を参考に調べる癖をつけましょう。また、相手に理解してもらうためには、具体的な例やイメージを交えた説明もすることで誤解などを防ぐことができます。
正確なコミュニケーションは、コンセプチュアルスキルを高めるうえで重要な役割を果たすため、言葉の定義を明確にする癖をつけておくことも大切です。
まとめ
今回はコンセプチュアルスキルについて詳しく解説しました。コンセプチュアルスキルは、抽象的な概念や複雑な問題を理解し、それを解決するために必要な概念やアプローチを考え出す能力です。
この能力は現代において必要不可欠なスキルとなり、特にリーダーシップや問題解決能力、コミュニケーション能力など幅広い分野で役立ちます。
また、今回ご紹介したコンセプチュアルスキルの高め方についてもスキルを磨きたいと思っている方は、ぜひ日々意識しながら生活してみてください。コンセプチュアルスキルが高められ、これまで以上に仕事に楽しく向き合えるでしょう