「モラルハラスメント」とは、相手を傷つける言動や態度をとることで、自分自身を優位に立たせようとする行為を指します。
1980年代に「セクシャル・ハラスメント」という言葉が生まれて以降、様々なハラスメントが社会問題となっていますが、近年では「モラルハラスメント」に悩まされる人も増加してきました。モラハラは、家庭内や職場など、様々な場面で起こりうる身近な問題となっています。
ここでは、具体的なモラハラの事例やモラハラをしやすい人・被害を受けやすい人の特徴を解説します。
モラハラ(モラルハラスメント)とは?
モラハラの意味と定義
モラハラとは、モラル・ハラスメントの略で、精神的な暴力の一種です。相手を傷つける言動や態度をとることで、自分自身を優位に立たせようとする行為を指します。道徳や倫理を意味するモラルと、嫌がらせを意味するハラスメントを組み合わせた言葉で、道徳や倫理に反した嫌がらせと言えます。
モラハラ以外にも、性的な言動による嫌がらせであるセクハラや、妊娠・出産・育児に関して不当な扱いを受けるマタハラなど、相手に対する言動や行動によって、不快な気持ちや精神的な苦痛を与えるハラスメント行為は近年、社会的な問題として注目されています。
モラハラとパワハラの違いは?
モラハラとパワハラは、どちらも人間関係において問題となる行為ですが、その違いは以下の通りです。
パワハラは、職務上の上下関係にある者が、その優位性を背景に、自分よりも下位の者を業務上の適正な範囲を超えて精神的・身体的に傷つける行動を指します。
一方、モラハラは、上下関係のあるなしにかかわらず発生するもので、言葉や態度、無視や嫌がらせなど、相手を精神的に傷つけるような行為を指します。また、被害者が自分が被害者であることに気付きにくいことも特徴的です。
モラハラの事例
それでは、実際にモラハラに該当する言動や行動はどのようなものなのでしょうか。ここでは、家庭と職場におけるモラハラの事例をそれぞれ紹介します。
家庭におけるモラハラの事例
配偶者の意見を尊重しない
配偶者の意見を尊重しないことは、モラハラにあたる行動の一つです。
具体的には、配偶者が何かを言おうとすると、無視したり、話を遮ったりする、配偶者が自分の意見を述べたとしても、それを聞かずに自分の話を続けるといった行動が該当します。
見下した発言や態度・暴言を吐く
相手に対して見下した発言や態度・暴言を吐くこともモラハラに該当します。
具体的には、会社の仕事を優先し、家庭の仕事を下に見て「誰のおかげで生活していると思っているんだ」などと責める言動や、学歴や職歴、能力などの弱点を指摘して見下す発言などが該当します。
配偶者を監視したり異常な束縛をする
配偶者に対する過度な束縛もモラハラの一種です。例えば、配偶者が外出する際に、常に電話やメッセージで連絡を取り合うことを強要したり、外出先での行動や人との交流を詳細に報告させたりすることなどが該当します。
また、配偶者のスマートフォンやSNSアカウントを勝手にチェックしたり、友人や家族との交流を制限したりすることもあります。これらの行為は、配偶者の自由やプライバシーを侵害するものであり、モラハラの一種とされています。
職場におけるモラハラの事例
無視
挨拶をしても返事をしなかったり、話しかけても返事をしないといった無視による嫌がらせは職場で発生しやすいモラハラの一つです。また、本人が拒否していないのに行事・会議・ミーティングなどに誘わないといった仲間外れの状態を作るといった事例もあります。
暴言・陰口
職場で上司から「お前は仕事ができない」と言われたり、陰口を言われたりすることもモラハラにあたります。このような言葉は、相手を傷つけるだけでなく、自信を失わせることにもつながります。
プライベートへの過度な干渉
恋人やパートナーのことをしつこく聞こうとしたり、終業後や休日などの付き合いを強要したりするケースもモラハラにあたります。近年では、本人が嫌がっているにもかかわらずSNSをチェックして行動を把握しようするといったケースも挙げられます。
業務妨害
職場で行われるモラハラの中には、業務に関する嫌がらせも存在します。具体的には仕事の進め方ややり方について、わざと誤解を与えたり、的外れな指示を出したりすることで、業務の進行を妨げるような行為があります。
モラハラの被害による悪影響
被害者の身体への影響
モラハラの被害が続くと、精神面に支障をきたす場合があるとされています。ここでは代表的な身体への影響を解説します。
心身症
心身症とは、精神的なストレスによる身体症状を指します。モラハラは、相手を精神的に傷つける行為であり、被害者は不安やストレスを感じます。そのため、身体的な症状として、頭痛、胃痛、めまい、息切れ、動悸などが現れることがあります。モラハラによる心身症は、被害者自身が気づかないことが多く、早期の対処が必要です。
うつ病
一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状や、睡眠障害、食欲低下といった身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じている場合はうつ病の可能性があります。うつ病かもしれないと思った場合は、自己判断をせずに早めに専門家へ相談すると良いでしょう。
適応障害
ストレスがかかる特定の状況で「激しい気分の落ち込み」や「不安感」に悩まされ、日常生活や社会生活に支障をきたしてしまうのが適応障害です。職場のモラハラにおいては、出勤できなくなるなどが挙げられます。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、トラウマになる出来事をきっかけに、実際の体験から時間が経過した後でもその出来事がフラッシュバックのように思い出されたり、否定的な感情が強まったりする疾患です。
モラハラの被害者は、トラウマ体験を思い出すことで、不安や恐怖、怒りなどの強い感情を抱き、日常生活に支障をきたすことがあります。
職場への影響
職場で発生するモラハラは、被害者に限らず職場全体にも悪影響を及ぼします。
ここではモラハラによる職場への影響を3点紹介します。
離職率の増加
モラハラが蔓延している職場では、離職率が増加する可能性が高いです。
実際に被害を受けている当事者はもちろん、周囲の人々も労働環境に不満を持ち、離職を考えることも多いでしょう。
職場の環境悪化
職場でのモラハラは、従業員のメンタルヘルスに悪影響を与えます。
例え自分がモラハラの被害者ではなくとも、すぐ近くで理不尽に怒られている同僚がいれば、職場の空気が悪くなることは想像しやすいでしょう。
職場全体の雰囲気が悪くなると、従業員のモチベーションが低下し、さらに職場の環境が悪くなるという悪循環が生じてしまいます。
企業イメージの低下
モラハラが行われている企業であることが広く社会に知られると、企業イメージが低下することは避けられません。
場合によっては自社商品の不買運動が起こってしまったり、採用活動がうまくいかなくなってしまう可能性もあるでしょう。
モラハラの被害者と加害者の特徴
それではどのような人がモラハラの被害者や加害者になりやすいのでしょうか?ここでは、モラハラの被害者や加害者となる人の特徴を紹介します。
モラハラ被害者の特徴
モラハラの被害にあいやすい人には下記のような特徴があります。自分に当てはまると感じた方は、意識して行動し、トラブルを回避しましょう。
真面目で謙虚
モラハラ被害者の特徴の一つに、真面目で謙虚な性格が挙げられます。自分への責任感が強いために、自分自身を責めたり、相手の言葉を鵜呑みにしてしまう傾向があります。また、他人への思いやりが強いために自分の感情や意見を抑えてしまい、気が付けば無理な仕事を押し付けられるなどモラハラの被害にあってしまう傾向にあります。
空気を読みすぎる
場の空気を読んだり、相手の気持ちや意図を察知しやすい人もモラハラの被害を受けやすい傾向にあります。相手の機嫌を損ねないように行動したり、雰囲気を壊さないために言いたいことを飲み込んでしまうため、結果的に加害者のモラハラを促してしまう場合があります。
自己主張が苦手
相手に理不尽なことを言われても言い返すことが苦手など、自分の意見を主張することが苦手な人もモラハラの標的になりやすいです。さらに、モラハラの被害を受けても言い返すことができないため、周りが気づきにくいという特徴もあります。
モラハラ加害者の特徴
モラハラ加害者には下記のような特徴があります。自分に当てはまると感じた方は、普段の他人に対する行動がモラハラになっていないか、改めて振り返ってみましょう。
自己愛が強い
モラハラの加害者には、自己愛が強い人が多いとされています。自己愛とは、自分自身とその能力に自信を持ち、大切にすることです。それ自体は悪いことではありませんが、自己愛が行き過ぎて、自分が優位に立つことを求めるようになると、相手に対してモラハラ行為を行ってしまう場合もあります。
自分は他の人より優れていると強く感じがちな人は、モラハラ加害者になりやすいといえるでしょう。
他人を支配しようとする
支配欲の強い人は他人を支配することで優越感を抱き、安心感を得ようとします。しかし、過剰な支配は他人の人権の侵害となります。自分が正しいという気持ちが強く、他人を自分の思うように操ろうとする人は、モラハラをしやすい人といえるでしょう。
自分も被害にあっている
過去にモラハラの被害を受けた経験がある人は、それが当たり前となり、他人に対しても同じことを行ってしまう場合があります。例えば、過去に上司から厳しい指導を受けた経験を、部下にも強要するといったケースが挙げられます。
また、職場でモラハラを受けている人が、そのストレスを自分の中で解消できずに、家庭で配偶者にモラハラをして当たってしまうというケースもあります。
もしもモラハラの被害を受けてしまったら
それでは、もしモラハラの被害を受けてしまったらどうしたらよいのでしょうか。
モラハラは、周りから気が付かれにくいケースも多く、他人に相談できずに一人で抱え込んでしまっている方も少なくありません。しかし、専門家に相談することで問題がスムーズに解決する場合もあります。
ここでは、モラハラの被害を受けてしまった場合の相談先を紹介します。
家庭でのモラハラの場合
家庭内でモラハラの被害を受けている場合は、下記のような相談窓口を使うとよいでしょう。
●DV相談ナビ | 内閣府男女共同参画局
tel : #8008
※全国共通の上記の電話番号に電話すると、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。
また、DVの増加・深刻化の懸念を踏まえ、令和2年4月より24時間の電話相談のほか、メールやSNSによる相談も可能な窓口も設置されています。
●DV相談プラス|内閣府
職場でのモラハラの場合
職場でモラハラの被害を受けた場合は、まずは社内の相談窓口へ相談してみましょう。
相談しても解決しない場合や、相談窓口がない場合は下記のような外部の相談窓口を使うとよいでしょう。
●総合労働相談コーナー
各都道府県労働局や、全国の労働基準監督署内などに設置されています。
職場のトラブルに関するご相談や、解決のための情報提供を行っています。
●みんなの人権110番(全国共通人権相談ダイヤル)
差別や虐待、ハラスメントなど、様々な人権問題についての相談を受け付ける相談電話です。
電話は、おかけになった場所の最寄りの法務局・地方法務局につながります。
まとめ
モラハラは、家庭内、職場内問わず様々な環境で起こる可能性があります。モラハラには様々な行為が含まれるため、被害者や加害者もそれと気づかずに対応が遅れてしまう場合もあります。
モラハラの事例や特徴を理解し、モラハラの当事者にならないように気を付けて行動しましょう。