仕事やプライベートなどで、自分は語彙力が足りないなと感じている方に、どうすれば語彙力をアップできるか、そのキッカケになる考え方を簡単にまとめてみました。
語彙力がアップすれば理知的になるだけではなくて、おそらく感情も抑制しやすくなって、仕事での説得力とか信用力アップにつながるのではないかと思います。
語彙力の意味や語源について
語彙力は、もともと英語 vocabulary の訳語です。現代中国や朝鮮半島でも使われている欧米由来の政治、経済、思想、哲学、芸術等のほとんどの用語は、明治維新以降の日本人によって訳出されていて、語彙もその一つです。
「語」は言語の語で、「彙」は類のこと、すなわち種類の類ですね。ですから、語彙力とは「言語の種類」であり、 vocabulary が豊富であるということは、言葉の種類を数多く知っていて、使いこなせているということです。
現代日本語は大和言葉、漢語、外来語の三種類から成り立っていますので、それぞれの種類を出来るだけ多く知っていれば、文章や会話の理解や表現がよりスムーズになるはずです。
なお、時代、時期による流行語等に変遷がありますので、一時的に流行ったとしても、数年後には忘れ去られていくことがしばしばあります。
そのため、やはり何世代にもわたって使われている言葉を多く理解していくことで、人間関係においても、豊かで潤いある時空間を過ごすことができるのではないかと思います。
ちなみに英語は、言葉の使い方や語彙の違いによって、そのステータスがはっきりと分かってしまう恐ろしさがあります。日本語では、それがやや曖昧なのですが、それでも語彙力の違いは、人間力の判断に影響を与えるものだと認識しておくべきではないでしょうか。
語彙力が不足しているかどうかを確認する
それでは、まず現在どのくらいの語彙力があるかを自己認識する必要があるのではないかと思います。単に覚えている言葉の数という意味だけではなくて、いかに使いこなせているのかが重要ではないかと思います。もちろん類語を多く知っていることも大事です。
年齢相応に語彙力があるかどうかを確認するには、古典とか良書を読んでみて、語彙をどれだけ理解できているかを確認することから始まっていくのではないかと思います。
例えば、夏目漱石の「草枕」「三四郎」、芥川龍之介の「杜子春」、司馬遼太郎の「歴史と視点」を読んでみて、自分自身の語彙力を試してみるのもいいかもしれません。文庫本でも電子書籍でも、どちらでも構いません。
何といっても、会話や文章の中でTPOにふさわしい文脈で使えているかが語彙力なのではないかと思いますが、遊び心で10個の熟字を挙げてみますので、発音と意味が分かるでしょうか?
熟字 | 発音 | 意味 |
---|---|---|
散見 | ||
凡百 | ||
爛熟 | ||
懸想 | ||
風靡 | ||
通底 | ||
晦渋 | ||
廉直 | ||
翻案 | ||
料簡 |
語彙力の確認は大切ですが、くれぐれも試験ではありませんので、どの程度分かっているのかを確認するのが目的であり、他者との比較の為ではありません。
まずは、自分の現在位置を知ることから始まると思います。それから次のステップ、すなわち自分が今後どうすべきかを考えるべきではないのでしょうか。
※先ほどの熟字の発音と意味は、この記事の最下部に記載していますので気になる方は確認してみてください。
語彙力アップへの目安
確認の次は、語彙力アップへの目安です。
例えば、30歳とか35歳、40歳時点で、自分の語彙力をどの程度にしたいのかを明確にしておいたほうが良いのではないかと思います。
具体的には、夏目漱石の評論集、芥川龍之介の随筆集、川端康成の随筆集とか、或いは司馬遼太郎、渡部昇一の各評論本で、どれだけ理解できたかについてが、一つの基準になりうるのではないかと思います。
一方、翻訳書についてはなかなか難しいと思います。というのは、やはり原文の難解さとか訳者の巧拙がどうしてもあるからです。
語彙力を高めるためには
知らない言葉の意味を調べる
例えば、一つの随筆等を読んだ後、知らない言葉の意味を調べるのは当然としても、文脈や言い回しの妙などが、どの程度理解できたかを確認したほうがいいと思います。
もちろん文脈から読み取りながら、言葉の意味を推測して読んでいくというやり方もありますので、いちいち調べていたら集中力が欠けるという方には、それも良いかもしれません。
古典と呼ばれる良書を音読する
小学生じゃあるまいしと思わずに、例えば、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」や「杜子春」を5〜10分程度音読してみてはいかがでしょうか。
黙読とは違い、何か発見があるかもしれません。頭の中に目と耳の両方から言葉が入ってきますので、かなり効果的なインプットになりますし、また会話の時にふと思い出して、気の利いた表現ができるでしょう。
短い文章を手書きで書く
そして、30分や1時間でも時間を作って、200字詰原稿用紙3〜4枚でその要約とか感想を手書きしてみることをお勧めします。
もし難しいと感じるならば、あまり無理せずに、その週に自分が経験したことをつらつら書くというのもありますが、要は、文章を書くという作業は考える力を養うのみならず、表現力を鍛えることにもなるためです。
また、なぜ600〜800字なのかということですが、新聞のコラムなどとほぼ同じ文字数なので、コラムを読む時などに、書く立場で読むことができるのではないかと思います。あとは続けるかどうかだけですね。
加えて、なぜパソコンではないのかという疑問が起きるかもしれませんが、パソコンだと選択する漢字が自動的に出てきてしまうので、自分の思考力や表現力を養う為には、やや安易な方向へ流れてしまう可能性があるからです。
やはり手書きの効用を見逃してはならないと思います。どうか面倒くさいと思わずに、何とか3か月程度続けてみてはいかがでしょうか。必ずや、新しい発見があるはずです。
こういうプロセスを経て、例えば「西田幾多郎随筆集」とか幸田露伴の論考集、清水幾太郎の評論集を試してみたり、また難易度は多少高いかもしれませんが、翻訳本としては、ヤスパースの「哲学入門」に挑戦するのもいいのではないでしょうか。
形容詞、形容動詞を単独では使わない
形容詞とか形容動詞、副詞を使わないことを勧める方もいるかもしれませんが、表現力を豊かにするためにも、積極的に使うべきです。ただし注意すべきは、決して単独で使わないことです。
形容詞の後にちゃんと名詞を、動詞には形容動詞をセットしたり、効果的に副詞を使うことで、センテンスが引き締まります。もちろん形容詞等の過多は慎むべきです。
類語辞典を一日15分程度読む
辞書は引くためのものではありますが、実は読むものでもあります。
特に、類語辞典は読むのに格好な辞典ですので、常に小さなものを持ち歩いて、数十秒でも数分でも目を通すことをお勧めします。例えば、通勤時間のスキマ時間に読んでみると時間を有効に活用できるはずです。もちろん、電子書籍でも良いでしょう。
ことわざ、金言を数十から百程度覚える
覆水盆に返らず、蓼食う虫も好き好き、郷に入っては郷に従え、鉄は熱いうちに打て、などは当然としても、会話や文章の中で諺や金言を使うことによって説得力を増します。
何よりも会話の流れにキラリと光る輝きを与えます。ただし多用すると嫌味にもなりますので、ここぞという時に使えば、聞き手に好印象を感じさせます。
語彙力が乏しい人に共通する傾向とは
ここでは語彙力が乏しい人に共通する5つの傾向をご紹介します。
- 相手が伝えたい意図を正しく理解できずに、感情的になりやすい
- 語彙力の乏しさを自覚していない
- 周囲に語彙力のある人がいても気がつかないし、見習わない
- 学生時代、また社会人になってからの読書量が少ない
- 知識と情報の違いを混同している
それでは1つずつ見ていきましょう。
相手が伝えたい意図を正しく理解できずに、感情的になりやすい
コミュニケーションギャップはお互いの未熟さによるものですが、ドラッカーが指摘しているようにコミュニケーションは受け手の行為なので、発信する側に一義的な責任があります。
しかし、それでも受け手の語彙力不足がはなはだしいと、受け手自身にも改善の余地があるのではないかと思います。
相手の発言をきちんと理解できなかった時、もし相手に対して感情的になることがたまにあるのならば、もしかしたら語彙力が足りていないかもしれないと自覚すべきではないでしょうか。
語彙力の乏しさを自覚していない
また自分の語彙力が乏しいことを認識していない場合もあるかもしれません。
例えば、もし語彙力の乏しい人同士が会話をしても、お互いに語彙力が不足しているとは感じないですむかもしれませんが、どちらかが語彙力が豊富であった場合はどうなるのでしょうか。
学生時代に小説、随筆、評論等を、例えば300冊読んだ人と30冊読んだ人とは、おそらく語彙力には差があると思われます。
(小説等でも内容にピンからキリまであるので、比較考量は難しいのですが)
もし30冊の人と300冊の人の会話を聞いたとしても、お互いにはっきりと、その違いが分からないかもしれませんが、万が一、3000冊以上読んでいる人がその会話を聞いていたら、語彙力の違いをある程度は判断できるかもしれません。
周囲に語彙力のある人がいても気がつかないし、見習わない
語彙力が不足している人は、それを自覚していない可能性があります。逆に語彙力が豊富な人は、足りていない人を見わけられると思いますが、問題は自分の語彙力が不足していることを第三者に見抜かれていることに気がつかない場合です。これは悲しいですね。
もし親切な人が周囲にいればアドバイスしてくれるかもしれませんが、せっかく助言してくれても反発してしまうのであれば、それこそまさに語彙力不足を証明することになってしまうかもしれません。
ただ反発してしまっては何事も学べませんし、おそらくもう二度とアドバイスしてくれないかもしれません。
学生時代、また社会人になってからの読書量が少ない
学校では、未知の言葉や考え方に出会いながら覚えたり使ったりして、年々語彙力が増えていくわけですが、しかし学校で習う内容以外に興味関心のある分野の書物をどれだけ読んできたかは、それぞれで異なります。
そのため、社会人になった時には各自の語彙力はまさに千差万別なのです。
ですから、学校の勉強だけで過ごした人の語彙力は乏しいと思われますし、社会人なったのだから、もう仕事で使う専門知識を学ぶだけでもう充分だと考えている場合、数年で語彙力が落ちていくのではないでしょうか。
知識と情報の違いを混同している
あくまでも情報はインフォメーションにすぎませんが、知識はノレッジですので、知性へと繋がっていきます。ですから創造的であり、想像的でもあります。
情報は消費されていくので、残念ながらはかなく消えていきがちですが、知識であれば、頭脳での滞在時間が長くなるのではないでしょうか。
しかも知恵に近い知識ほど記憶に残る時間が長くなっていくはずです。ですから語彙力は、情報よりも知識に親和性があるのではないのでしょうか。
ちなみに、渡部昇一著の『指導力の研究』を紹介した記事「あふれた「情報」を活かすための「情報力」が鍛えられる!」で、情報を知恵に活かすための情報力の鍛え方として投稿していますので、気になる方は是非読んでみてください。
語彙力アップが人格の魅力へとつながる
では、それなりの語彙力を持っていると、何か効用があるのでしょうか?
語彙力があることでのメリットを4つほど書き出していきます。
引き出しが多くなる
語彙力のある人は、相手が理解しやすい言葉を選ぶことができると思います。
何故ならば、どういう表現をすれば、相手が理解できるかを知っていれば、どの言葉をどう使えばいいのかを豊富な語彙から選ぶことができるからです。
ですから、相手に分かりやすく、易しく表現できて、相手を納得させる背景には、実は語彙力が潜んでいるということを認識しておくべきではないかと思います。
難しい言葉を使う人の語彙力は豊富なのではないのか思うかもしれませんが、本当に豊富であれば、相手が反発してしまうような言葉を選択せずに、それなりに納得させられるだけの幅広く奥行きのある表現を駆使できるはずです。
抽象的な考え方や複雑な事案を分かりやすく説明できる
また抽象的な概念をやさしく、大和言葉でも漢語でも外来語でも、また三種類をうまくブレンドしながらでも、伝えられるかが語彙力の真骨頂でもあるのではないかと思います。
図示するのとは一味違いますし、やはり言葉による説得力が一番ではないかと思います。相手だって、気持ちよく説得されたいのではないでしょうか。
例えば、英語でも語彙力は当然ですが、パラフレーズ(言い換え)とか、コロケーション(語と語の連結)によって、文章や会話に立体感が出てくるわけで、いかに多くのバリエーションを駆使できるかで説得力が違ってくるのは、何も日本語だけではないと思います。
語彙力が不足している人への説得力がアップする
何故自分の言っていることが理解できないのかと相手を責めたりするのではなく、何故相手が理解できないかの原因を知ることこそが、コミュニケーションを深める第一歩ではないのでしょうか。
ですから語彙力が増えれば増えるほど、どう表現すれば相手が理解できるのかを深く認識していけば、説得力に違いが出るのは明らかだと思います。
感情的になるのを抑制できて、信用アップにつながる
語彙力アップは自分の感情を抑制しやすくなります。
というのは、相手の理解力を推し量ることができるようになれば、接し方にも変化が生まれますので、だんだんと人格も柔らかく穏やかになっていくに違いありません。
おそらく仕事やプライベートでも、あなたのパーソナリティの豊かさを周囲の人たちに感じ取ってもらえるのではないかと思います。それによって、まさにあなたの信用アップに繋がるのではないでしょうか。
やはり言葉が人と人を結びつける重要なアイテム、ツールである以上、語彙力の豊かな人間になれば、やがて人格的にも丸くなるので、敬意が払われるのが自然なのではないかと思うのです。器が広い、という言葉がぴったりと当てはまるのかもしれません。
熟字の発音・意味の答え合わせ
熟字 | 発音 | 意味 |
---|---|---|
散見 | サンケン | あちこちにちらほら見あたること |
凡百 | ボンビャク | いろいろのもの |
爛熟 | ランジュク | 熟し過ぎること |
懸想 | ケソウ | 恋い慕うこと |
風靡 | フウビ | なびき従うこと |
通底 | ツウテイ | 基底の部分において共通性をもっていること |
晦渋 | カイジュウ | 意味のわかりにくいこと |
廉直 | レンチョク | 心が清くまっすぐなこと |
翻案 | ホンアン | 前人の行なった事柄の大筋をまね、細かい点を変えて作り直すこと |
料簡 | リョウケン | 考えをめぐらすこと ゆるすこと |
おわりに
語彙力の有無や多寡は年齢にそれほど比例せず、やはり読書量や観察眼、経験量に加えて、アウトプットの質と量とに相関するのではないかと思いますので、今からでは遅いと思わずに、思い切ってトライしてみる価値は大いにあると思います。
蛇足ながら、外国語習得も語彙力アップに繋がるのですが、それについては別の機会でお伝えしたいと思います。どうかあまり難しく考えすぎずに、できる範囲から少しずつ挑戦してみてはいかがでしょうか。