ビジネスにおいてはさまざまな思考法が注目されていますが、その中でも必要不可欠と言われているのがコンセプチュアルスキルの構成要素の1つである「クリティカルシンキング」です。
日本語では「批判的思考」とも言われていますが、なぜクリティカルシンキングが注目されているのでしょうか。
今回は、そもそもクリティカルシンキングとは何か説明し、メリットや身につけるための実践ステップまで詳しく解説します。
クリティカルシンキングとは
クリティカルシンキングとは、日本語で直訳すると「批判的思考」と表現される言葉です。批判的と聞くと、ある事柄に対して批判をしたり、粗探しをしたり、欠点を片っ端から見つけたりすることと捉えられがちですが、そのような意味ではありません。
クリティカルシンキングは、客観的な視点から情報を評価し、理論的な推論や結論を導くために使用される思考プロセスです。
例えば、ゴールに辿り着くまでA・B・Cの3つの道があるとします。どの選択肢を選んだとしても結局最終的にはゴールに辿り着くため、適当に選んでも問題ないと考える人もいるでしょう。
しかし、クリティカルシンキングでは簡単な結論を出しません。例えば、「Aに進むと天候が悪くなり、ゴールに辿り着くまでに時間がかかるかもしれない」「Cはゴールまでの距離が短いが、険しい道のりだから辿り着けない可能性もある」など、「本当に正しいのか」という視点を持って物事を見ています。
このような視点を持つことで、難しい問題に対しても正確な判断を下せるようになるのです。
このように、クリティカルシンキングはあらゆる問題解決に向けた合理的な判断を下すためのプロセスであると言えます。特にビジネスにおいては重要な思考法の一つとなり、注目されているのです。
クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違い
クリティカルシンキングとロジカルシンキングは、どちらも理論的に問題に取り組むための思考法であるので同じ意味と捉える方も多いですが、アプローチとしてはそれぞれ異なるものを持っています。
クリティカルシンキングは、問題解決のために情報を収集、分析することで正しい判断を下すことができます。問題の背後にある根本的な原因を探り、異なる視点から分析することでより深い理解を得ることができるのです。
一方、ロジカルシンキングは理論的な思考に重点を置いています。ある事柄の要素を細かく分けて思考し、道筋を立てて結果を導くための思考法です。つまり、経験や直感に頼らず、客観的なデータや論理的な思考に基づいて考えるのがロジカルシンキングとなります。
このことから、クリティカルシンキングは「思考の質を高めるためのプロセス」であり、ロジカルシンキングは「正確な結論を導き出すための思考法」と理解することができます。
クリティカルシンキングが必要な理由
クリティカルシンキングの最も古いとされる歴史は、約2500年前です。紀元前400年頃、古代ギリシャの哲学者であるソクラテスが用いた「問答法」がクリティカルシンキングの根源とされています。
その後、17世紀のフランシス・ベーコンや18世紀のジョン・ロックなどの哲学者たちが、科学的な方法としての批判的思考を提唱しました。
20世紀に入り、教育の分野で批判的思考を教えることが重要である認識が高まり、アメリカの哲学者リチャード・ポールが批判的思考の研究を開始しました。そして、リチャード・ポールが批判的思考に必要なスキルを「クリティカルシンキング」と呼び、広く普及させることに貢献しました。
20世紀頃にクリティカルシンキングが必要とされていた理由は多岐に渡りますが、世界的な情報化やグローバル化の進展に伴い、情報量が増加し、多様化したため真偽の確認や情報の評価が重要になったことが注目された理由の一つとも言われています。
現代でもこれらの理由に加え、デジタル社会の発展によるフェイクニースや偏見の拡散など、幅広い問題があることからクリティカルシンキングが必要不可欠と考えられています。
クリティカルシンキングのメリット
クリティカルシンキングを用いることによって、どのようなメリットがあげられるのでしょうか。ここではクリティカルシンキングについて勉強したいと考えている方のために、4つのメリットを紹介します。
物事の本質を見極められる
クリティカルシンキングは、物事を深く分析し、本質を見極めるための思考法です。例えば一つの意見や感情に基づく判断をすることなく、理論的な分析に基づいた判断ができるようになるのです。
具体的にはある一つの問題に対し、まずはその情報を収集し、正確性が高いかどうか検証します。そして、その情報を分析し、何が本質的な問題かを見極めることができます。最終的には問題を解決するための最善策を見つけ出すことができ、解決へとつなげていくことが可能です。
物事は表面的な情報では本当に正しいかどうかわかりません。誤った判断を下してしまうと物事がうまくいかなかったり、解決に結びつかない可能性も高いため、そのようにならないためにも重要な思考法と言えるでしょう。
思考力向上につなげられる
クリティカルシンキングを駆使することで、思考力を向上させることが可能です。このスキルを磨くことで、より深い理解力を養うことができ、独自の見解や解決策を考えられるようになります。
また、自身の思考プロセスをより客観的に見つけられることによって、考えた事柄に対して反省や改善もできるようになります。より精度の高い思考力を磨くことができるため、自分自身の成長につなげることも可能です。
特に物事を深く考えることができない、一つの意見を鵜呑みにしてしまうなど、このような問題に悩んでいるならクリティカルシンキングを実践してみてはいかがでしょうか。
新たな発想を見つけられる
クリティカルシンキングは、「こうなったらこう」というように、慣れ親しんでいる考え方や解決策から脱却することが可能です。常に慣れ親しんでいる考え方をしていると、いつも同じような答えとなり、新たな発想を見つけることはできません。
しかし、クリティカルシンキングを駆使することで問題を別の角度から捉え直し、従来の発想に固執することはなくなります。つまり、思考の幅を大きく広げることが可能になるため、新たな発想を見つけやすくなるのです。
また、自分自身のアイデアに対しても、自己批判的になります。「本当にこれで正しいのか?」「もっと改善できる方法があるのではないか」と深く考えることが可能になり、よりよいアイデアが生まれてくることがあります。
これらのことからも、新たな発想を見つけるためにも必要不可欠な思考です。日頃から慣れ親しんでいる考え方からなかなか脱却できない方は、ぜひクリティカルシンキングを実践してみてください。
コミュニケーション能力の向上
クリティカルシンキングは、相手の意見や主張を深く理解することができるため、コミュニケーション能力の向上にもつながります。
具体的には相手の発言を受け止めるだけではなく、自分の意見も的確に伝えることが可能です。また、相手の主張に対して常に疑問を持ち、その理由なども探し出すことができます。これによって相手とのコミュニケーションがより深くなり、質の高い対話を行うことができます。
現代社会はネットによってコミュニケーションを手軽に行えるようになりました。便利ではありますが、ネットでのコミュニケーションは文章として相手に伝えることとなるため、より理解しやすいように考えるなど工夫が必要です。
このような状況でもクリティカルシンキングを駆使することで、より質の高いコミュニケーションを行えるようになります。特に対話や文章でのコミュニケーションに自信がないという方は、実践できるようトレーニングをしてみてはいかがでしょうか。
クリティカルシンキングを身につける方法とは
クリティカルシンキングを身につけるためには具体的にどのような方法があるのでしょうか。ここでは大きく分けて3つのトレーニング方法について紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
第三者目線を意識すること
あらゆる物事に対して、第三者目線で意識することが大切です。ある問題を解決するために、自分の意見を主張したい気持ちもわかりますが、それでは相手の意見を理解することはできず、問題を解決することも難しいでしょう。
例えば自社の商品やサービスにおいて、良さを理解していることから主観的になりがちですが、それでは競合他社と比較して優位性があるかどうかは判断できません。優位性があるかどうか判断するためには、客観的に物事を見れないとより効果的なマーケティング戦略を考えることができなくなるのです。
第三者目線を意識することで、競合他社の商品やサービスを客観的に評価し、それに対して自社商品やサービスの良さや悪さを把握することができます。客観的に見ることで主観的ではわからなかった問題が見えるようになることもあるので、まずは第三者目線を意識してトレーニングすることが大切です。
事実をもとに発言すること
自分自身の意見を述べることや、判断をすぐに下すことも時には大切です。しかし、その意見や判断が正当化されなければ説得力はありませんし、間違った内容を伝えてしまうことにもなりかねません。そのため、クリティカルシンキングを身につけるためには事実をもとに発言することを意識しましょう。
例えばある問題に対し、客観的な事実に基づいて理論的に考えることが大切です。具体的には自分自身の考えを述べる前に、事実確認をしたり、情報収集をしたりすることが重要になります。そして、その情報を客観的に分析したうえで自分自身の考えを述べるようにすれば、説得力も増し、正しい情報を伝えることが可能です。
このように、スキルを身につけるためには事実をもとに発言することが大切となりますので、必ずすぐに意見を述べるのではなく、しっかりと情報収集、分析をしたうえで伝えるように意識しましょう。
クリティカルシンキングの実践的なステップ
クリティカルシンキングを身につけるためには、トレーニングをすればいいのかというとそれだけでは足りません。実践的なステップに沿って進めていくことがスキル習得までの近道となるため、ここでは具体的な実践的なステップについて紹介します。
目的を明確に決める
実践に向けたステップとして最も大切なのが、目的を明確に決めることです。目的を明確に決めることで何をどのように考える必要があるのかを明確にできます。目的が定まっていないと焦点が定まらなくなるため、本質的なポイントに触れることができません。
例えば、ある事柄に対して「問題を解決するための意見を出したい」とします。これではどのような問題なのかが明確になっていないため、質の高い意見交換などはできません。一方、「クレームに対する問題を解決したい」であれば目的が明確になっているため、より具体的で本質的な問題にフォーカスした考え方ができます。
このように、実践するためには目的を明確にすることが大切なので、どの問題を解決したいのかなどしっかりと方向性を定めてから実践するようにしましょう。
前提条件が正しいかしっかり分析する
クリティカルシンキングを実践するうえでは、前提条件が正しいのかしっかりと分析することが大切です。前提条件は必ずしも正しいとは限らず、もし鵜呑みにしてしまうと自分自身の主張自体も間違いになってしまう可能性があります。
例えば、「ユーザーに人気の商品を作れば必ず売れる」といった前提条件があるとします。これらの前提条件がある場合、「実際にユーザーがどの商品に興味を持っており何を求めているのか」調査しなければ、「商品開発をしたけど売れない」などマーケティング戦略を誤ってしまうことも考えられます。
これらのことから前提条件は、何かしら不備があると疑いの目を持って検証することが大切です。出されている前提条件を鵜呑みにして物事を進めるとゴールを間違う可能性があるため、本当に正しいかしっかりと分析をして取り組みましょう。
課題や矛盾点を見つけたら書き出す
クリティカルシンキングを実践するうえで見つかった課題や矛盾点は、書き出していくことが重要です。書き出すことでどのような問題かを明確にでき、解決に向けて考えることができるようになります。
例えば「このお菓子はとてもおいしいです」と表現しているにも関わらず、実際に試してみたらおいしくなかった場合、これは課題や矛盾点となります。
これらの見つかった課題や矛盾点を淡々と書き出していきましょう。また、書き出す際には感情を入れてはいけません。感情が入ると客観的に物事を見ることができなくなるため、本質的な課題や矛盾点を見つけられません。
その他にも、課題や矛盾点はただ書き出すだけでは何も解決しません。解決するための具体的なアイデア等も考えることが大切です。
見つかった問題を解決するための行動をする
課題や矛盾点が見つかった場合、それらを解決するための行動を取りましょう。具体的な行動を実行するためには、誰が・何を・いつまでに・どこで・どのように、など具体的に決めることが大切です。そして、その中で可能な解決策を考え、それぞれの利点や欠点を比較検討したうえでアクションを行うようにしましょう。
また、問題を解決するための行動を取ったあとは、それだけで満足してはいけません。理由としては、その後の結果や分析、課題などを見つめ直さないと本当の解決とは言えないからです。
以上がクリティカルシンキングの実践ステップとなります。ここまで行動して初めてクリティカルシンキングを駆使していると言えるため、難易度は高めと言えます。しかし、しっかりとステップを踏みながら癖をつけていくことで習得できるスキルなので、トレーニングもしながら身につけてみてください。
クリティカルシンキングを実践するうえで重視したいポイント
クリティカルシンキングを実践する際には、特に重視したいポイントがいくつかあります。ここでは3つのポイントを紹介するので、参考にしてみてください。
さまざまな視点から物事を疑う姿勢を持つ
クリティカルシンキングを実践する際には、さまざまな視点から物事を疑う姿勢を持つことが大切です。疑う姿勢を持つことで、色々なことに対して客観的に見ることが可能になり、自分自身の主観的な観点にとらわれず、より正しく分析することができるようになります。
例えば自分が「絶対に正しい」「間違いは一つもない」と考えていても、その考え通りに進めることなく、「本当に正しいかな?」と疑うことが重要です。実際に自分が絶対に正しいと思う内容であっても、別の視点から見たら間違っていたということもあります。そのため、自分の思い込みほど信用できないものはないといった考えで進めることが大切です。
相手の立場や意見にも耳を傾ける
クリティカルシンキングを実践するうえでは、相手の立場や意見にも耳を傾けましょう。重要な理由としては、自分自身が持っていない有効な考え方や情報を相手が持っているかもしれないからです。
耳を傾け、自分にはない情報を聞き出すことができれば、自分の考えを改めることができたり、改善できたりします。
その他にも相手の立場や意見に耳を傾けることで、相手との信頼関係も築き上げることが可能です。どちらも意見を尊重し、敬意を持つことでコミュニケーションの質も高められます。
このように、自分の視野を広げ、より多角的な判断ができるだけでなく、信頼関係を築くこともできるため、クリティカルシンキングを実践する際には相手の立場や意見に耳を傾けることも忘れてはなりません。
解決策は複数出しておく
クリティカルシンキングでは、問題や課題を解決するのが最終的なゴールです。そのため、早く解決策を打ち出して問題を収束させようと考える人も少なくありません。しかし、問題や課題に対して一つの解決策にこだわってしまうと、もしうまくいかなかったときに対処できなくなってしまいます。そのため、実践する際には複数の解決策を出しておくことが大切です。
複数の解決策を打ち出すことにより、自分自身が持っている知識などにとらわれず、新たな発想を得ることが可能です。また、複数の解決策があることで、それぞれの利点や欠点を比較検討でき、より良い解決策を選択できる可能性が出てきます。
一つの解決策では万が一重大な問題が発生した場合に柔軟な対応ができない可能性があるため、それらを防ぐためにも複数出すように意識しましょう。
事実なのか意見なのか見極める
クリティカルシンキングを実践するうえでは、事実なのか意見なのかを見極めることも重要なポイントになります。
例えば、Aさんが「○○社の製品は安全性が確認されているからおすすめ」と教えてくれても、これが事実なのか意見なのかその場では判断できません。実際に調べたうえで安全性が確認されているのであれば、それは事実として正しいことがわかります。しかし、安全性が確認されている事実がなければ、それはAさんの意見であるため、その根拠を確認する必要が出てくるのです。
事実か意見かを見極められなければ、物事を客観的に判断し、正しい結論へと導き出すことはできません。本当に正しいのかを理解するためにはしっかりと見極めることがクリティカルシンキングには重要であり、そのスキルを身につけることでより正しい判断力を備えることができるでしょう。
まとめ
クリティカルシンキングは、現代社会において必要不可欠なスキルです。実際に情報過多な時代において何が正しい情報なのか見極めることが重要であり、もし正確な判断ができなければ間違いを述べていることにもなりかねません。
あらゆる問題が発生した場合も色々な情報が入ってきます。その中からより正しい決断をするためにはクリティカルシンキングのスキルを身につけることが重要なのです。
クリティカルシンキングを身につけるためには、とにかく実践することが大切となります。今回の内容では身につけるための具体的な方法から実践ステップまで紹介したので、それらを参考にしながらクリティカルシンキングを身につけてみてください。