コミュニケーションは私たちの日常生活において欠かせないものであり、「コミュニケーションを図る」という表現は日常的に使われています。しかし、この表現は正しいのでしょうか?それとも「とる(取る)」が正しいのでしょうか?
この記事では、この疑問に答えつつ、円滑なコミュニケーションの秘訣やコミュニケーションを図るのに役立つ心理学の法則を6つ解説します。
ぜひ、この記事を読んで、日常生活や職場でのコミュニケーションの向上に役立ててください。
コミュニケーションを図る? とる(取る)?
日本語には微妙なニュアンスの違いを持つ言葉が数多く存在します。
その中で、「コミュニケーションを図る」と「コミュニケーションをとる(取る)」という言葉は、私たちが日常で使う表現の一つです。これらの言葉の違いを理解できていますか?
「図る」と「とる(取る)」の意味を比べてみる
「図る」という言葉は、「計画する」「試みる」といった意味を持ちます。一方、「とる(取る)」は「手に入れる」「実施する」といった意味があります。
この基本的な意味の違いから、コミュニケーションにおけるニュアンスの違いを探っていきます。
コミュニケーションを「図る」と「とる(取る)」の違い
コミュニケーションを「図る」
「コミュニケーションを図る」とは、コミュニケーションを計画的に、かつ意図的に進めようとする姿勢を指します。
例えば、チームでプロジェクトを進める際に、メンバーとのコミュニケーションを計画的に行うことなどが「コミュニケーションを図る」ことと表現できます。
【例文】
リーダー「今度の金曜日、一緒にランチはどうですか?
その時に、今後新しく始まる予定プロジェクトについても話したいと思っていて、あなたの考えを聞かせてほしいです。」
この例文では、リーダーが意図的にメンバーとの関係構築の機会を設けています。
このアプローチは、ただ情報を共有するだけでなく、メンバーの意見やアイデアを引き出し、チームの一員としての参加を促すためのものです。
コミュニケーションを「とる(取る)」
一方、「コミュニケーションをとる(取る)」は、実際にコミュニケーションを実施する、実際のアクションを指します。例えば、相手に質問をする、意見を伝えるなど、具体的なコミュニケーションの行為を示します。
【例文】
上司「プロジェクトの進捗はどうですか? 明日のミーティングまでに状況を教えてください。」
ここでのコミュニケーションは、必要な情報を直接的に取りに行く行為です。上司は進捗を確認し、必要な情報を効率よく集めることを目的としています。
どちらも日本語としては間違っていないが、意味合いが違う
これらの例文を通じて、「図る」は関係性の向上や相手のニーズや要望を理解するという視点に立ち、「とる(取る)」は短期的な情報収集やお互いの考えへの理解に注力していることが分かります。
職場でこれらのアプローチを適切に使い分けることが、効果的なコミュニケーションを実現する上で重要となります。
職場で円滑なコミュニケーションを図るにはどうすれば良い?
コミュニケーションのニュアンスの違いを理解した上で、職場での円滑なコミュニケーションをどのように図るかについて考察しましょう。
実際の対話や会話の中でのアクションに加え、背後にある心理学的な要因も理解することで、より効果的なコミュニケーションが可能となります。
意識するだけで円滑なコミュニケーションを図ることができる6つのポイント
では、意識を持つだけで円滑なコミュニケーションを図ることができる6つのポイントを紹介していきます。
- 話題を準備する
- 話し方(言葉の表現や使い方)を意識する
- 相手の話を聞く・聴く
- 相手に関心をもつ
- 自己開示をする
- 言葉以外の部分(声のトーンや大きさ、身振り手振り)も意識する
話題を準備する
事前に話題や質問を準備しておくことで、スムーズなコミュニケーションが可能となります。特に、相手の関心や背景を考慮した話題選びは、深い対話を生むきっかけになるはずです。
ぜひ、コミュニケーションを図る前に準備してみてください。
話し方(言葉の表現や使い方)を意識する
一方的な発言よりも、相手が自由に回答できるようなオープンエンドな質問を用いると、相手の意見や感想を引き出しやすくなります。
また、言葉の選び方や語尾を柔らかくすることで、相手に安心感を与えることができるはずです。
相手の話を聞く・聴く
コミュニケーションにおいて、相手の話を真摯に聞くことは非常に重要です。相手の意見や気持ちを尊重し、反応や質問をすることで、相手との関係性を深めることができます。
相手に関心をもつ
相手の趣味や家族、過去の経験など、個人的な話題に興味を示すことで、相手との距離感を縮めることができます。
自己開示をする
自分の経験や考え、感じたことをオープンに共有することで、信頼関係を築きやすくなります。
言葉以外の部分(声のトーンや大きさ、身振り手振り)も意識する
コミュニケーションの大部分は、言葉以外の要素で伝わります。適切な声のトーンや身振り手振りを使用することで、メッセージの伝わりやすさが大きく向上します。
コミュニケーションを円滑にする心理学の法則
コミュニケーションの質を向上させる際には、心理学の法則を知ることで理解が早くなり、実践しやすくなるはずです。ここでは、6つの心理学の法則を紹介します。
メラビアンの法則
メラビアンの法則は、コミュニケーションにおける非言語的要素の影響を定量化したものです。
アルバート・メラビアンによる1971年の研究では、人と人とのコミュニケーションにおいて、実際の言葉が影響を与える割合は7%、声のトーンが38%、非言語的な要素(表情や身振りなど)が55%と提唱されました。
普段から何気なく取っているコミュニケーションは、実は非言語的な要素が大きく影響していたのですね。
【メラビアンの法則から得られる学び】
- 対面のコミュニケーションでは、表情や身振り手振りで表現すると、相手に伝わりやすい
- 相手の表情や素振りを気に掛けると相手の気持ちが理解しやすくなる
【メラビアンの法則で気を付けるべきこと】
- 話の内容や状況によっては、言葉の内容がより重要になる場合もあることも理解が必要
- 研究は特定の状況下でのみ適用されるため、法則が全てに当てはまると断定することは危ない
- あくまでもコミュニケーションにおける非言語的要素の重要性を示すもので、言語的要素の重要性を否定しているわけではない
類似性の法則
人は自分と似た特徴や価値観、経験を持つ人に惹かれる・興味を持つ傾向にあります。これは類似性の法則と呼ばれ、友情、恋愛、職場関係など幅広い人間関係に影響を及ぼします。
共通点が多いほど、人は相手に対する親近感や信頼を感じやすく、対話がスムーズに進むことが多いです。
【類似性の法則から得られる学び】
- 相手との共通点を探すことで、相手との距離を縮めやすくなる
- 相手の立場に立って考えると、共通点を見つけやすくなる
- 相手の違いを受け入れることにもつながる
【類似性の法則で気を付けるべきこと】
- 過度に類似性を求めると、閉鎖的なグループになってしまうこともある
- 多様性を失わないように注意し、異なる意見や視点にも開かれていることが大事
返報性の法則
返報性の法則とは、誰かに好意的な行動をしてもらったら、その人に対して何かを返したいという人間の自然な傾向を指します。
この法則は、商取引、人間関係、交渉の場において非常に強力であり、小さな好意が将来的に大きな利益を生むことがあります。
【返報性の法則から得られる学び】
- 周りの人からの好意を持ってほしいなら、自分から好意的な行動を取ると良い
- 周りから協力してもらいたいなら、自分から周りの人に協力すること
- 結果、win-winになって幸せになれる
【返報性の法則で気を付けるべきこと】
- 無理強いするような返報性の要求は避けるべき
- 好意は自発的でなければならず、期待として押し付けるべきではない
ザイオンス効果(単純接触効果)
ザイオンス効果は、特定の人物や物事に何度も繰り返し接触することで、好感度や評価が高まっていく心理学的な現象です。
繰り返される接触は親しみや安心感を生み出し、製品やブランドに対するポジティブな評価に繋がります。
【ザイオンス効果から得られる学び】
- 周りの人からの好意を持ってもらうには、関わる回数を自分から増やすこと
【ザイオンス効果で気を付けるべきこと】
- 接触の頻度にはバランスが必要であり、過度な接触は逆効果になることがある。
- 品質や価値の低い製品の露出は、否定的なイメージを強化する可能性がある。
熟知性の法則
熟知性の法則は、人々が初めて見るものに比べて、繰り返し見るものに好感を持ちやすくなることを指します。
この法則は、人が不確実なものや知らないものに対して持つ不安を減らし、よく知っていることやモノに安心感を見出す傾向に基づいています。
【熟知性の法則から得られる学び】
- 自分自身を知ってもらうことが、周りからの好感度を高めることにつながる
- 相手に知ってもらうには、繰り返し伝えることが必要
【熟知性の法則で気を付けるべきこと】
- 新しいモノが求められる状況では、熟知性に依存しない革新的なアプローチが必要。
- 繰り返しによって生じる単調さや飽きを避けるために、新鮮さを提供する工夫が必要。
開放性の法則
開放性の法則は、自分自身の考えや感情をオープンに共有することで、より強固な人間関係が築けるという原理です。
この開放性は、コミュニケーションの透明性を高め、互いの理解を深めることができます。
【開放性の法則から得られる学び】
- 自分の考えや意見をオープンにすることで、相手からの信頼を得られる
- 相手の考えや意見をオープンに聞くことで、相手の考えを理解し、関係を深められる
- オープンにすることで、新しい発見や学びを得られる
【開放性の法則で気を付けるべきこと】
- どこまで自己開示するか見極めることが重要で、オープンにし過ぎると逆効果になることも。
- 文化的、社会的な背景によって開放性の受け入れ方が異なるため、状況に応じた適応が必要。
知っておきたいコミュニケーションの5つのテクニック
職場のコミュニケーションを円滑にするためのテクニックは数多く存在します。以下は、特に効果的とされる5つのテクニックをピックアップしました。
ミラーリング(同調効果)
ミラーリングとは、相手の身体言語、トーン、言葉の選択などを無意識のうちに真似するコミュニケーション技術です。
心理学においては、相手との関係を強化し、信頼を築くための手法として知られています。相手の行動を「鏡」のように映し出すことで、無意識のうちに相手との親密さや同調感を生み出します。
【ミラーリングで得られる効果】
- 対人関係での信頼感と共感が高まる
- 相手に親近感を抱かせることで、オープンな会話につなげてくれる
- ビジネスや交渉の場での相手への影響力を増やすことができる
【ミラーリングで注意すべきこと】
- やり過ぎると不自然に見える恐れがある
- 相手に気付かれると不誠実さを感じさせる可能性がある
- 文化的背景によって受け入れられ方が異なるため注意が必要
【実践する時に抑えたいポイント】
- 自然に行うことが大切です。やり過ぎないように注意しましょう。
- 細かい部分まで真似する必要はありません。全体的な雰囲気を真似するようにしましょう。
- 相手に不快感を与えないように注意しましょう。
バックトラッキング(オウム返し)
バックトラッキングとは、相手の言葉をそのまま、または要約して繰り返すことで、理解していることを示し、さらに情報を引き出すコミュニケーション技術です。
これは相手の話に真剣に耳を傾け、共感を示す一方で、話をより深く掘り下げるためのものです。
【バックトラッキングで得られる効果】
- 相手に聴き手としての関心と理解を示す
- コミュニケーションにおける誤解を減少させる
- 相手からさらなる情報や感情の開示を促す
【バックトラッキングで注意すべきこと】
- 自動的な繰り返しは相手に不快感を与える可能性がある
- 相手の話を聞く際には、自分の解釈を加えずに忠実に反映させる必要がある
- 相手の話に自分の感情や意見を加えないようにする
【実践する時に抑えたいポイント】
- 相手の話に真剣に耳を傾け、共感を示す
- 相手の言葉をそのまま、または要約して繰り返す
- 相手の話に自分の解釈や感情を加えないようにする
- 相手の話に質問を投げかけ、さらに深掘りする
イエスセット話法(YES SET話法)
イエスセット話法とは、相手に小さな質問や要請から始めて「はい」と答えやすい状況を作り出し、最終的に大きな要請や提案に対する同意を得るテクニックです。
小さな同意から始めることで、相手は次第に同意することに慣れ、大きな要請にも前向きに応じるようになります。
【イエスセット話法で得られる効果】
- 段階的に相手の合意を引き出す
- 抵抗感を最小限に抑えつつ、提案を受け入れやすくする
- 営業や交渉の場での効率的な影響力の行使
【イエスセット話法で注意すべきこと】
- 相手がテクニックに気付くと、信頼を失う恐れがある
- 状況に応じて適切なタイミングで使用する必要がある
【実践する時に抑えたいポイント】
- 相手に共感を示し、信頼関係を築く
- 相手が「はい」と答えやすい質問や要請をする
- 徐々に質問や要請のレベルを上げていく
フット・イン・ザ・ドア・テクニック
フット・イン・ザ・ドア・テクニックは、最初に小さなお願いをして同意を得た後、より大きな要求をするという心理的アプローチです。
一度小さな要求に応じると、相手は一貫性の原則に従って、次の大きな要求も受け入れやすくなるとされます。
【フット・イン・ザ・ドア・テクニックで得られる効果】
- 段階的なコミットメントを通じて、最終的な目標が達成できる
- 小さな成功体験を積み重ねることで、相手の自己効力感を高める
- 営業や社会運動において、小さな行動変容から大きなものへと導く
【フット・イン・ザ・ドア・テクニックで注意すべきこと】
- 最初の小さな要求が適切でないと、後の大きな要求への影響も損なわれる
- 相手の快適ゾーンを考慮し、強要と捉えられないよう配慮が必要
【実践する時に抑えたいポイント】
- 最初の小さな要求は、相手が受け入れやすいものであり、かつ、次の大きな要求につながるものであること。
- 相手の快適ゾーンを考慮し、強要と捉えられないよう配慮すること。
- 段階的に要求のレベルを上げていくこと。
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックとは、初めに大きな要求をして断られた後に、より小さな要求をすることで、相手が応じやすくなるという手法です。
このテクニックは、相手にとって小さな要求が相対的に受け入れやすく感じさせ、協調性を引き出す効果があります。
【ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックから得られる効果】
- 比較の原理を利用して、実際の要求をより魅力的に見せる。
- 最初の大きな要求による驚きや圧力を緩和させる。
- チャリティ活動や売上目標の達成に有効。
【ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックで注意すべきこと】
- 最初の要求があまりに非現実的すぎると、信用を失う。
- 断られることを前提に戦略を立てる必要があるため、関係構築に配慮が求められる。
【実践する時に抑えたいポイント】
- 最初の要求は、相手が現実的だと判断できるものであることが重要。
- 関係構築に配慮し、断られたときにも良好な関係を維持できるようにすることが重要。
- 段階的に要求のレベルを上げていくこと。
ここまで紹介してきたテクニックは、コミュニケーションの中で人々の心理的な反応を利用しています。正しく、そして適切な状況で使用することで、コミュニケーションの質を向上させることができるはずです。
しかし、それぞれ注意しないと逆効果になる場合もありますので、相手に合わせて使うように心掛けましょう。
コミュニケーションは相手に伝わって初めて意味がある
コミュニケーションは、相手に自身の意図や考えを伝えるものです。相手の反応や感情を尊重し、適切なテクニックを用いることで、より効果的なコミュニケーションが可能となります。
コミュニケーションの質を向上させるためのテクニックや心理学的な知識を身につけることで、職場だけでなく、日常生活においても豊かな人間関係を築くことができるので、ぜひここでご紹介した心理学の法則やテクニックを活用してみてください。
きっと今より更に良いあなたの人生につながっていくはずです。