企業で働く会社員にとって、昇進して管理職になることは喜ばしいことに思えるでしょう。
しかし、現代では「管理職になりたくない」と思っている会社員が多く、出世願望がない人が増え続けています。
管理職になりたくない人が増えているのにはさまざまな理由があげられますが、その中でも多いのが管理職になってもあまりメリットを得られないことが理由の一つのようです。
今回は、なぜ管理職になりたくないのかその理由を紹介し、管理職を経験することで得られるメリットについても紹介します。
自分が管理職になるべきかどうか悩んでいる人にとっておすすめの内容となっているので、ぜひ参考にしてみてください。
7割以上の一般社員は管理職になりたくないと考えている!?
日本能率協会マネジメントセンターが2023年4月に一般社員に対する「管理職になりたい/なりたくない」といった調査では、約77%が「管理職になりたくない」と回答しています。
2018年にも同様の調査を行い、その当時は72.8%であったことから、年々管理職になりたくないと考えている人が増えている結果となっているのです。
半数以上が管理職になりたくないといった結果から、企業としても問題と捉えており、悩ませているポイントの一つとなっています。
管理職になりたくないと回答する人が増えているのには、さまざまな理由があるようですが、実際にどのような理由があるのでしょうか。
管理職になりたくない代表的な9つの理由
そもそもなぜ、管理職になりたくないと考えている人が多いのかというと、それは管理職のメリットを感じないからです。
ここでは代表的な理由について9つあげているので、具体的な理由について知りたい方は参考にしてみてください。
年収が減る
「管理職になると年収が増えるのでは?」と思われている方も多いでしょう。しかし、場合によっては年収が減ってしまうこともあり、それを理由になりたくないと思っている人も多いのです。
通常、管理職は基本給が上昇し、役職手当などがつき、固定給が上昇していく仕組みとなっています。しかし、役職手当の代わりに残業代に関しては会社から支払われなくなることもあるのです。
管理職になると責任を持って会社に最後まで残ることや、仕事量も多いなど残業時間が長くなるケースも多くなります。
このような場合、通常の社員であれば残業代が発生し、給料に反映されるので問題ありませんが、管理職はどれだけ残業をしても支払われないなどの問題により、かえって年収が下がってしまうことも考えられるのです。
「負担の割にお金がもらえない」となり、モチベーションが下がってしまっている方が多いため、管理職になりたくないと考えている人の方が多いのです。
上司と部下の仲介役になるため
管理職になると、経営側にいる上司と、抱えている部下の両方の意見を汲み取らなければなりません。
いわゆる中間管理職となりますが、上司と部下で意見が対立した場合、うまくまとめるのは至難の業です。
上司の意見を汲み取らなければ評価が下がるかもしれないといった気持ちになりますし、部下の意見を無視すると、モチベーションの低下にもつながるなど、どちらを選択しても一方が嫌な思いをする結果となってしまうのです。
管理職は人間関係で悩むケースも増えてしまい、自分自身がストレスを溜め込んでしまうことも少なくありません。
実際に社員として働いていたときに、上司の人間関係に悩む姿を見て管理職になりたくないと思う人も多いなど、永遠の課題とも言えそうです。
責任が重くなる
一般社員として働いていたときに比べ、管理職になると一つの部署を管理することになるため、部署内で発生した問題の全責任は、自分が負わなければなりません。
ミスが起きたらその責任をとって退職といったような厳しすぎるものはほとんどないものの、ミスが起きたらその都度対応に追われるのが管理職です。
また、管理している部署の成績が評価対象となるため、下降していれば上司に追及されることになります。責任は常に追求されるポジションとなるため、ストレスは感じやすくなります。
誰かにフォローをしてもらう立場ではなくフォローする立場なので、自分で全て解決しなければならないのは、責任が重く管理職になりたくないと思う理由の一つと言えるでしょう。
安定性が担保されるわけではない
これまでの日本の企業は、年功序列や終身雇用などが当たり前でした。そのため、企業に入社し、昇進することで将来は安定しているといった考えを持つことができていたのです。
しかし、今はこのような制度が廃止されている傾向にあり、勤続年数が長いからといって必ずしも出世できるとは限りません。また、ただ出社しているだけではリストラになる可能性もあり、結果を出さなければ雇い続けてくれない世の中へと変わってきています。
そのため、「管理職になれば将来の安定性が担保される」といったことはなく、メリットの部分が失われつつあります。
管理職になっても変わらず結果を出し続けなければならないため、負担も大きく、安定性も担保されていないことから、管理職にはなりたくないと思う人が増えています。
仕事や家庭との両立が難しいため
現在では、女性でも出産後に仕事復帰する方も多く、男性でも育児休暇を取得するケースが増えているなど、仕事だけをしていれば良いといった考え方ではなくなり、家庭と仕事の両立が求められるようになりました。
そのため、管理職になると仕事の責任が重くなり、業務の時間も長くなる可能性があるので、仕事と家庭の両立ができる自信がなく、管理職にはなりたくないと考える方が増えています。
企業側のサポートが充実していれば両立も可能ですが、なかなか理解を得られない職場での両立は特に難しいと言えるでしょう。
副業したほうが稼げるから
管理職になれば、役職手当や基本給のアップなど、収入が上がるケースがほとんどです。しかし、残業代は発生しない企業もあるため、思った以上に収入が得られず負担に見合っていないから副業をした方が稼げると考える方もいます。
実際にインターネットを活用すれば簡単に副業を開始できるサービスや、副業向けの仕事も多く紹介されているなど手を出しやすい状況へと変わってきています。
また、政府も副業を推奨しているなど、従来の副業禁止から副業が認められる世の中へと変わってきているため、「それなら副業をした方が気持ちも楽だし稼げる」と考える人が増え、管理職は避ける判断をされてしまっているのです。
その他にも副業は、今まで経験したことのない仕事にも挑戦でき、スキルアップも目指せます。収入アップだけではなく、自分自身の能力も上げられるため、転職を検討する際にも有利に働くなどメリットが多いです。
管理職と副業のメリットを見比べたときに、副業の方がメリットが多いと判断する方が多いため、わざわざ管理職に手を出すことはないと考える方が増えているのです。
現場で仕事をするのが好きだから
今の職場や仕事にやりがいを持てているといった方に多いのが、管理職よりも現場の仕事の方が好きだから管理職にはならないと判断するケースです。
特に仕事に慣れてくる段階では、面白さもわかってくるようになり、もっと専門性を極めていきたいと思うようになる時期でもあります。
現場が楽しいと感じる時期ではなかなか管理職になりたいと思う方は少なく、もし推薦されても「やりたくない」と答える方が多いでしょう。
自分には適正がないと思っているから
「自分にはそもそも管理職は向いていない」「上司として今の部署をまとめる自信がない」など、適正がないと感じている人も多いのが、管理職になりたくないとされている理由の一つです。
管理職はいざという時に適切な決断ができなければなりませんし、リーダーシップを発揮するうえでもコミュニケーション能力が必要不可欠です。
責任も重いため、上司の姿を見て「とても自分にはできそうもない」と感じてしまう人も多いでしょう。
つまり上司を見て憧れを抱く人が少なくなっているのです。ハードルが高すぎるがあまり、自信を持つことができなくなり、「自分には向いていない」と思われてしまうのです。
そのような状況を防ぐためには、やはり管理職へのハードルを下げることが重要であり、企業としても努力していく必要があるでしょう。
プライベートを優先したい
リクルートキャリアが実施した「若手の中途採用・転職意識の動向」を調査した内容では、「あなたが仕事をする上で、特に重視することは何ですか?」の質問に対し、20代は約40%近くが「プライベートの時間を十分に確保できること」と回答しています。
つまり、仕事が一番といった考え方が消えつつあり、それよりもプライベートを大切にしたいと考える層が増えているのです。
そもそもプライベートが優先できる環境を求めているにもかかわらず、責任が重く、ストレスも感じやすい管理職になりたいと思う人はそれほど多くないでしょう。
そして、2番目以降も「給料が高い」「やりたいことを仕事にできる」など、出世といった言葉は出てきていません。
このような調査結果が出ていることから、「管理職になりたい」と考える層を増やすには、管理職のイメージや働き方を変えていく必要があるかもしれません。
管理職にならないことで起こる5つのデメリット
現在働いている企業で管理職にならないことを決めた場合、いくつかのデメリットもあります。
ここでは管理職にならないことによる5つのデメリットも紹介するので、なるかならないかで迷っている方は参考にしてみてください。
自分の価値が下がる一方
ここ最近では、「〇〇企業が早期希望退職者を募集している」などのニュースを見る機会が増えています。また、それだけではなく、企業に不要だと思われればリストラされるケースもあります。
このような状況で、真っ先に目を向けられるのは一般社員です。
これは企業に対する貢献度などもチェックされ、一般社員は管理職に比べると対象に入りやすくなります。
特に年齢を重ねて一般社員のままでいると、さらに自分の価値は下がっており、リストラの対象に含まれる可能性は高くなるでしょう。
将来的に転職や独立を検討しているなら問題ありませんが、「将来、この会社に留まり続ける」ことを検討しているなら、管理職になる方が価値が高まるため、メリットは大きいと言えます。
一般社員ができる体験に留まる
管理職は、ビジネスにおける重要な決断をしたり、予算、人材、事業計画を決めたりと、その部署内の社長的な役割を任されることになります。
一方、一般社員は決められた作業を黙々としたり、指示待ちのまま過ごしたりとあまり責任のある仕事を任されることはありません。
また、基本的に一般社員の仕事は変わることがなく、そのままの状態で留まり続けている以上、同じ仕事を繰り返すことになります。
特に将来的に企業したり、フリーランスとして開業を検討している場合、管理職のスキルや知識は役立てることができます。
管理職のような責任感のある仕事は、自分自身を成長させることにもつながるため、チャンスが巡ってきた場合には前向きに検討した方がいいでしょう。
年功報酬を減らされる
年功報酬は、若い人よりも年齢が高くなればなるほど給料が高くなる仕組みです。従来は年功報酬の企業も多く存在していましたが、現在はなくなりつつあります。
その理由は、年功報酬は企業側にメリットがないからです。企業としては「年齢が上がるだけで管理業務をこなせないのに、なぜ給料が上がるのか?」と疑問に思うケースが増えてきており、廃止する動きが強まっています。
また、年功報酬は若い世代の人たちにとってもデメリットとなり、「なぜ自分がこれだけ頑張っているのに、年齢が高いだけの理由で給料が高いのか」といったことにもなりかねないのです。
上記で述べた理由から年功報酬は減らされつつあり、管理職にならないのであれば給料は上がらない状況へと変わってきているため、一般社員に留まり続けるのはあまり良くありません。
上司が年下になる
一般社員として留まり続けることで、自然と自分よりも年齢が低い人たちが出世していきます。つまり、上司が年下へと変わってきます。
それでも全く構わない人にとっては問題ありませんが、年齢が下でも指示されるようになりますし、ミスをすれば追及されることになります。
耐えられない人にとってはストレスとなるため、チャンスがあるなら積極的に管理職を目指した方がそのようなストレスは軽減される可能性が高いでしょう。
また、上司も一般社員より年齢が低い場合、仕事がやりづらく感じることが多くなるため、年下上司のストレスを余計に溜めさせてしまう原因の一つにもなります。
良い環境を保つためにも、管理職への就任はできる限り拒否せず、積極的に挑戦した方が会社のためにもなるのです。
転職も困難になる可能性がある
一般社員として留まり続け、自分自身を成長させないことによるデメリットとして、転職が困難になることがあげられます。
例えば「一般社員として働いていたけど、年齢層が若くなって働きづらくなった。転職をして環境を変えたい。」と思っても、いざ求人をチェックすると条件に当てはまる求人がほとんどなかったとなるケースもあるのです。
年齢が若ければ転職は遅くありませんが、年齢を重ねてからは困難な道と言えます。
しかし、管理職を経験している人は、もし転職を検討している状況でも「マネジメント経験のある人材」として採用してもらえる可能性が高くなります。
スキルや能力がある人は年齢を重ねても採用される可能性が高いため、こういった面を見ても管理職は積極的に挑戦した方が良いでしょう。
避けられがちな管理職にはメリットもたくさんある!
管理職はデメリットが多い反面、断り続けることによるデメリットもあります。
そのため、「管理職になってください」と言われた際には断らないのがベストであり、積極的に挑戦することがおすすめです。
実際に管理職として就任したあとも、デメリットばかりかというとそうではありません。管理職ならではのメリットも多いため、ここでは魅力的な部分についても紹介します。
マネジメント能力が身に付く
マネジメント能力は、一言で説明すると「管理能力」のことです。例えばマネージャークラスであれば、担当するチームや部署を管理できる能力です。
マネジメント能力は経験を積むことで身につけられるスキルの一つであり、目標設定、進捗管理、リーダーシップ等を発揮していくことで、結果的にマネジメントスキルが身につきます。
一般社員でもリーダー的立場になることでマネジメントスキルは身につきますが、管理職は管理業務が中心となるため、さらにスキルを伸ばしていけます。
また、マネジメント能力を身につけることで、今の会社で役立つのはもちろん、将来的に会社を立ち上げたり、転職時でもリーダー的立場でヘッドハンティングされるケースもあります。
さまざまな場面で役立つスキルと言えるので、身につけて損をすることはありません。
新たなやりがいを見つけられる可能性も
管理職になると、一般社員のときと比べて環境が大きく変化します。具体的には新しい仕事に挑戦できたり、部下を持つことができたり、社員の中でもレベルが上のクラスになったりします。
同じ会社でありながら今までよりも環境を一変させられるため、自然とモチベーションがアップし、やりがいを感じることもできるでしょう。
このように、管理職になることでプラスに働く変化も多数存在します。もっとやりがいを持って仕事に取り組みたい、モチベーションが高まる仕事に挑戦したい人は、管理職になることを検討してみてください。
収入がアップする
管理職になるデメリットの中で、残業代が発生しないことを紹介しました。確かに残業代は発生せず、場合によっては一般社員よりも低くなることがあります。
しかし、役職手当や賞与なども含めると、トータルの手取りは管理職の方が高い傾向にあります。
実際に厚生労働省による令和4年最新の「賃金構造基本統計調査」によると、部長クラスが58.6万円、課長クラスが48.6万円、係長クラスが36.9万円の結果が出されており、非役職者は28.1万円です。
調査結果を見てもわかるとおり、非役職者に比べると収入は高い傾向にあり、最大差は30万円程度あります。係長クラスになるだけでも8万円〜9万円の差があるので、大きく異なることがわかります。
ただし、あくまでも調査であり、それぞれの企業によって収入は変わります。必ずしも調査結果の収入になるとは限りませんが、それでも収入の面だけを見るとメリットが大きいため、管理職に挑戦することはデメリットばかりではないと言えます。
今後のキャリアに幅広い選択肢が生まれるようになる
管理職になることで、将来において転職を考えた場合、選択肢は広がる可能性が高いでしょう。実際に条件や待遇面に関しても、一般社員と比べて高く設定されているケースがほとんどです。
例えば今の会社で管理職をしているけど、「他の企業と比べてうちは給料が安い」となった場合、転職することで一気に収入をアップさせることも可能です。
一般社員ではどこの企業も一般的な給料で設定しているため大きな期待はできませんが、管理職なら条件が良いところを見つけやすいのです。
また、管理職はハイクラス転職などで、ヘッドハンティングを受けやすくなるメリットがあります。これは非役職者に比べて多くなることが予想されるので、キャリアに幅広い選択肢が生まれるようになるのもメリットの一つと言えるでしょう。
まとめ
今回は管理職になりたくない人が多い現状を紹介し、管理職にならないままでも問題ないのかを紹介しました。
確かに管理職は責任が重大であり、責任と報酬が見合っていないと言われることもあります。さまざまなデメリットもあげればキリがないですが、悪いことばかりではありません。
特に将来を考えた時、やはり管理職を経験している方が色々と有利に働くことも多いです。
条件の良い会社に転職したい場合も、管理職の経歴があれば有利に働くことが多いでしょう。
管理職になりたくない方は、具体的にどのようなメリットとデメリットがあり、どちらを選択すると将来的には良いのかを、慎重に検討したうえで最終的な決断を下しましょう。